Dr.Yukaの5分間ティーチングブログ

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 救命救急センター 北野夕佳の5分間ティーチング連載ブログです。日々の臨床で必要な知識を「型」として蓄積するブログです。

貧血のアプローチ

症例:70代女性。肺炎で入院時にHb 7.0 g/dLを指摘された。今後、どのように精査を進めればよいか。

 

貧血精査の一般論:

  1. 貧血精査は、網赤血球 Reticulocyteの測定(Reticulocyte indexの計算)から開始し、他の血球系の異常も確認(状況に応じて、末梢血液像を確認)
  2. MCVを確認
  3. 材料類(フェリチン、Fe、TIBC、B12、葉酸)
  4. 月経で失血しているわけではない患者(non-menstruating patients) の鉄欠乏性貧血 (IDA)認めたら、必ず胃カメラ大腸内視鏡検査(=消化管悪性腫瘍の検索)を考慮 

 

’non-menstruating patients’ = 男性、(閉経後など)現在無月経の女性  

 

特に強調しておきたいのは、非月経患者の鉄欠乏性貧血の患者に対して、「鉄剤を開始して、改善しなければ上下部内視鏡」というプラクティスをしない、ということ。65歳以上の鉄欠乏性貧血の患者の9%(約11人に1人!)に、消化管の悪性腫瘍が見つかったというデータ*1がある。

したがって、鉄欠乏性貧血の原因が明らかではない場合には、必ず内視鏡を勧める(患者さんと相談する)必要がある。

参考:鉄欠乏性貧血のフローチャート(Am Fam Physician. 2007;75:671.)

 

貧血全体におけるwork upのフローチャートは、Hospitalist 血液疾患 vol.3 no.4 2015 pp.803-813.にすばらしい図があるので参照してください。

 

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CV(中心静脈カテーテル)抜去時の注意点

症例:70代男性。敗血症性ショックの管理のために、右内頸静脈から中心静脈カテーテルを挿入されていた。ショック離脱し、カテコラミンを離脱できたため、本日カテーテルを抜去することとした。抜去のときに注意すべきことは?

  • 空気塞栓を予防するために、必ず仰臥位(できれば下肢を挙上 or Trendelenburg体位)で抜去 
  • できれば呼気の途中 or 吸気後に息を止めて(valsalva)抜去
  • 抜去後すぐに穿刺部に密閉性の高いドレッシング材を貼って、その上からガーゼ圧迫(5分以上)する
  • 呼吸努力が強い、血管内脱水、太いカテーテルはリスク

 座位で中心静脈カテーテルを抜去したため、血管内に空気が流入し、空気塞栓を発症した事例が報告されている*1

死亡事例の報告もあり、空気塞栓は、カテーテル挿入時だけでなく、抜去時にも起こることを知っておき、出来る限りの予防手段を講じるべきである。

中心静脈は胸腔内にあり、陰圧になって空気を引き込むことがあるため、このような注意が必要である。

 

空気塞栓の臨床像は?

肺塞栓、脳梗塞、脊髄梗塞などの報告がある。

カテーテル抜去時にこれらの症状が出た場合には、空気塞栓を強く疑う

起こってしまったら治療はどうすればよいか。

左側臥位かつTrendelenburg位を取り、SpO2 100%酸素投与を開始する

この体位にすることで、右室心尖部に空気をとどめておくことが出来ると言われているが、厳密には検証されていない。

100%酸素を投与にすることで、空気の吸収速度が早まる可能性がある。

とはいえ、「空気塞栓を起こさないように最善の策を講じる=絶対に仰臥位!!」が大前提です。

 

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破傷風トキソイドの適応

サンプル症例

 30代男性が、バイク単独事故で搬送された。JATECにのっとって診療し、全身の擦過傷はあるが、骨折はなかった。

 

Q:破傷風の予防のために、何を評価すればよいか?

傷があるときには、

①きれいな傷かそうでないか、を診察 

②規定の3回/追加接種を含めた、最後の破傷風ワクチン接種歴を聞く。 

破傷風トキソイド・テタノブリンの適応を判断する。

④圧倒的大前提として、傷の開放・洗浄=嫌気環境を作らない

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5分間ティーチングとは_本ブログの使い方

本ブログの使い方

 

このブログは、

患者利益を最終目標として、日々の臨床業務を抜けなく安全に回せるようになるために必要な、覚えるべき知識

 を整理して発信することを目的としています。

そのため、細かいエビデンスにこだわった内容ではなく、妥当性のあるエッセンスに絞っています。

引用するのは原著論文ではなく、敢えてUptodate®や代表的な書籍、医学雑誌、ガイドラインにしています。なぜならば、それが私が実際に(大阪日赤時代もシアトルのレジデント時代も)臨床の隙間時間で吸収してきた方法であり、今後もそうして生涯学習してゆく道だと思うからです。

細部において、議論の分かれる内容があるかと思います。しかし我々は、そういった非常に細部の議論を延々と繰り返すことよりも、「患者利益に直結する重要な知識を、幅広く抜けなく覚えていく」ことの重要性を感じています。

 

当ブログでは、サンプル症例を提示した上で、実際の臨床をイメージしてもらい、

最初に、質問に対する回答の形式で、「最重要事項」=「型」=「5分間ティーチング」をシンプルにまとめています。

そらで思いだせる必要のある最重要事項のみを、箱の中に書いてあります 

その後に記載してあることは、その内容を理解するための解説事項ですので、すべて覚える必要はありません。「●●を除外しなければいけなかったはず」のように「思いつきさえすれば」患者利益につながる事柄がたくさんあります。そのエッセンス=5分間ティーチングを覚えることに集中してください。

このブログの使い方 !!! 必読 !!!   

 

読者、特に研修医・若手の先生方へ、

 

以下を読み、ベッドサイド5分間ティーチングの目的をかならず理解したうえで本ブログを活用してください。

 

5分間ティーチングとは、「臨床上必須の事項を」「シンプルな」「型」として「自ら言語化=アウトプットできる形で」蓄積して臨床に生かしてゆくことが目標です。

 

ゆえに、書かれている内容は「simplify as much as possible (最大限エッセンスのみに)」してあります。

 

言い換えると「例外」は常に存在します。

(しかし例外をすべて列挙すると、何も知識として蓄積しない悪循環となります。5分間ティーチングの意図は、エッセンスのみに絞ることで確実に蓄積し、それを土台として、例外も含めて臨床判断ができるようになってゆく、という点にあります)

 

私(北野)は、あなたが診ている患者さんを診ているわけではありません。

ここに書かれていることでも、かならず指導医に再確認してください。ここに書かれていることと、あなたの指導医の判断が異なる場合には、実際に患者さんを診ている人の判断が圧倒的に優先されます。臨床判断は、極めて複雑、多因子です。本ブログの情報に基づいて行われたすべての事柄に関して、本ブログは一切責任を負いません。

 

学生の間や研修医になってからも「セミナー」「ワークショップ」が盛んに開催される時代になりました。研修医が、セミナーで聞いてきたことの方を、一緒に見ている指導医の判断よりも優先させる場面や、指導医に相談しない場面に遭遇し、愕然とすることがあります。このブログがそうなってほしくない、と強く願います。

 

その患者さんへの最善の医療判断は、その患者さんのベッドサイドにいる医師しか、できません。本ブログが、間違った使われ方をしないように、医療に対する「畏怖」を常に忘れずに医療が行われることを、強く願っています。

 

正しく使われて、本ブログが、私のお会いしたことのない患者さんの役に立つことを、心から願っています。

5分間ティーチング ブログ始めます。

 

 ベッドサイド5分間ティーチングのブログを始めることにしました。

 

 聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院 救命救急センターの北野夕佳です。

 

 総合診療~総合内科~救急など、いわゆるGeneralistのカバーすべき領域は膨大です。

 

その患者さんの、生活背景もふくめて、全身を診る医者になりたいと思ってGeneralistの領域に飛び込んできてくれたにもかかわらず、「一生できるようになった気がしない不全感」を感じている若手の先生は全国にたくさんおられるのではないかと思っています。

 

大阪赤十字病院時代の私(卒後2~4年目)もそうでした。日々病棟を走り回り、救急当直をこなし、隙間時間にワシントンマニュアルと聖路加内科レジデントマニュアルを読んでは書きこみ、「〇〇の最新の知見」的な単行本類を読み、レジデント向け月刊誌を読み、内科医学会雑誌を読み、必要そうな部分をノートに貼りつけて自分のマニュアルも作り、それでも成長した気がしない自分に自己嫌悪を感じて、常に焦っていました。

 

そのころの自分に向かって、このブログを書きたいと思います。

 

すべてを覚えようと思っても、人間の能力として限界があります。だからといって、全身を診る医者をあきらめるのはもったいないと思います。Generalistは、カバーすべき領域が膨大だからこそ、「シンプルに」「型として」「臨床に必須の項目を抽出して」「言語化できるレベルにして蓄積してゆく」必要性を日々感じています。

 

それを「ベッドサイド5分間ティーチング」と名付けました。

 

雑誌Hospitalist(MEDSi出版)に連載させていただき、うれしいフィードバックを数多くいただきました。学会・セミナーなどで5分間ティーチングのワークショップは20回を超え、応募開始後即定員になるなど、うれしい反響がありました。当院の昼カンファ(5分間ティーチングの少し詳しい版)のサマリーを流すメールのCCは100人近くになりました。

 

ブログにすることにはなぜか、抵抗がありました。私は何を怖がっているんだろうかと自問してみました。最も大きなものは、私の目の届かないところで間違った使われ方をして患者不利益になるのでは、なのだと思います。それは次の項、

「このブログの使い方 !!! 必読 !!! 」

を必ず読んでください。

私自身、5分間ティーチングとして頭を整理して生涯学習することの有用性を日々実感しています。正しく使ってもらうように明確に記載したうえで、私が有用だと思っているこの習慣を、シェアしてゆきたいと思います。

 

直接会ったことのないどこかの若手の先生と、その人が診る患者さんのお役に立てれば、この上ないよろこびです。

 

目標、週に2つくらい、当院の若手たちと一緒に、「型」=「普遍的に使える一般論」=「5分間ティーチング」を共有してゆきたいと思います。

 

建設的なご意見を、歓迎します。