Dr.Yukaの5分間ティーチングブログ

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 救命救急センター 北野夕佳の5分間ティーチング連載ブログです。日々の臨床で必要な知識を「型」として蓄積するブログです。

ADL iADLの評価 DEATH SHAFT

 

前回と同じサンプル症例を出します。

サンプル症例:

70歳男性

サンプル1)最近、外に出かけることなく、受け答えも鈍くなってきた。認知症なのではないかと心配になった家族とともに受診(内科外来パターン)

サンプル2)この3週間ほど、受け答えが鈍くなってきた。言動もおかしい。お手洗い(排尿)が間に合わずに失禁してしまったことも。本日、家族が帰宅してみると朦朧としており慌てて救急要請(うちの救急外来パターン) 

 

認知症かもしれない」「様子がおかしい」とご家族が言われるときに、

何がどれくらいできて、何がどれくらいできないのか』の把握は診療上必須です。

ですが、ご家族の話を受動的に聞いているだけではなかなか全体像がつかみにくいことも、臨床をしつつ痛感しておられると思います。

 

そのために、当院ではADL iADLの型 「DEATH SHAFT」を共有しています。*1

 

 

ADL

D: Dressing   着替え

E: Eating   食事 

A: Ambulation 歩行

T: Toileting   排泄

H: Hygiene   清拭

 

iADL

S: Shopping        買い物

H: Housekeeping   家事・掃除など

A: Accounting      口座管理

F: Food preparation  食事準備

T: Transportation    移動・交通機関

 

 

はじめは覚えるのに時間がかかるかもしれませんが、これを施設内で共有することで臨床が明らかにスピードアップします。ぜひ使い始められてください。

 

認知症評価以外にも、例えば救急外来でSpO2 80%(リザーバー8L)で搬送された重症肺炎、78歳男性に、挿管管理をするか、非侵襲的な管理のみ行うかの判断をご家族とともにせざるを得ない状況は良く経験されると思います。そのような状況でも『DEATH SHAFT』の聴取で『その方の日常の全体像』が『ビデオで見るように』把握でき、より適切な方針の相談を最も時短で行えると、当院のメンバー皆で実感しています。 

 

『うちのおばあちゃん、元気でなんでもできますよ』という方でも、口座の管理や料理はとっくにできなくなっている方もあれば、『要介護4』に認定されていも、介護タクシーを自ら手配して出掛けられるような、脊髄損傷の方もあります。

 

私たちの部署は、救命救急センターとそのICUだからこそ、「はじめまして」の患者さんも多いです。ですが「もともとどんな方かわかりませんので、方針が立てられないですね」では医療が進みません。

 

医療は「何が正しい」ということは言えないからこそ、その方のふだんの状況を『手に取るように』把握したうえで、ご本人and/or ご家族と相談してゆくしかないと思います。

 

ぜひ、早速、使われることをお勧めします。

 

追: 私も、今日も、使いました。

 

 

 

 

 

 

 

*1:Hospitalist 2016 vol.4 pp.174-178

’Treatable dementia’ 認知症疑いの中で治療しうるもの

サンプル症例:

70歳男性

サンプル1)最近、外に出かけることなく、受け答えも鈍くなってきた。認知症なのではないかと心配になった家族とともに受診(内科外来パターン)

サンプル2)この3週間ほど、受け答えが鈍くなってきた。言動もおかしい。お手洗い(排尿)が間に合わずに失禁してしまったことも。本日、家族が帰宅してみると朦朧としており慌てて救急要請(うちの救急外来パターン)

 

認知症疑い症例は、鑑別が多岐でいつも頭を悩ませます。だからこそ、Treatable dementiaの型を私は使うようにしています。

 

 

Treatable dementia

 

前回のブログで、胃全摘後(部分切除後でも)は、ビタミンB12欠乏注意を書かせていただきました。

Treatable dementiaの中にビタミンB12欠乏が出てくることで、「型」どうしが重なり合い有機的につながってゆく感触が伝えられればうれしいです。

上記のTreatable dementiaは、私がシアトルで上級医からベッドサイドで聞き、さらに(私の大好きなresourceの一つである)In the Clinicの非常にクリアカット・シンプルな記事で裏付けを取り使用してきたものです。

*1

さらにうれしい驚きとして、尊敬する山中克郎先生の本 UCSFに学ぶできる内科医への近道*2にもほぼ全く同じ記載を帰国後に見つけ、とても励まされました。

 

上記の型を常に使うことで

「採血、何を出そうかなあ~」

「頭のCT取った方がいいよなあ~」から脱却して、

 

病歴・身体所見・内服薬把握は必須 (次回DEATH SHAFTを書きます)

その上で、

血算・生化学は 大球性貧血や肝性脳症、腎不全、電解質異常除外のために必要です。

梅毒検査(RPR)、HIV抗体検査は、神経梅毒およびHIV脳症除外目的で必要です。

TSH, ビタミンB12は必要です。

頭部CTは、正常圧水頭症と 慢性硬膜下血腫除外目的で撮影します。。。

 

と、思考を構築してゆけると思います。 

 

また、私が頻用している小さな「型」として

 

正常圧水頭症NPH) の典型的な症状は?

Wet, Wacky, Wobbly

Wet: (子供がおもらしをする英語から)尿失禁

Wacky:(子供が使う’頭おかしい’的英語から)意識障害

Wobbly:(歩くのがふらふらする英語から)歩行障害

があります。

これを使うことによって、頭部CTで「脳室が大きそうに見えるけど、正常圧水頭症を疑うべきか自信がないなあ」の時に、「頭部CTで、脳溝に比し脳室が拡大していそうに見えます。かつ意識障害、歩行障害、尿失禁も認めるため、正常圧水頭症の可能性も含めて神経内科(or脳外科)に相談します」と思考を構築することができます。

 

他には、パーキンソンの「型」として私は下記をよく使っています。

パーキンソン病の症状  ’TRAP'

Tremor

Rigidity

Akinesis

Postual instability

 

 

 

型が無限に出てくる気がするかもしれませんが、総合内科医~内科救急医として働く上で、持ち札=型=5分間ティーチングが多いほど、自分の臨床を助けてくれることを実感しています。

 

 

*1:Dementia, Annals of Internal Medicine, In the Clinic, August 2014、

Dementia | Annals of Internal Medicine | American College of Physicians

*2:

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貧血のアプローチ その2

 

x月x日 私の診た救急外来症例です。

(本ブログの症例はすべて、医学的本質を変えずに周辺の事柄を事実と変えてあります)

70歳代男性、本日の主訴は自宅内で転倒、前額部打撲・挫創。「けっこう血が出たので心配になってね」と、救急外来に受診。

「意識消失」ではなくて「足がもつれて、けつまずいてね」とのこと。

頭部裂創縫合。頭部CT 陰性。

既往に胃癌術後。上腹部正中に手術痕あり。

 

胃癌術後と聞いて、(今回の主訴と関係なくても)脳幹反射的に聴取すべきことは?

  • 何年前ですか? 
  • 胃全摘ですか胃部分切除ですか? 
  • (胃全摘の場合)ビタミンB12補充は受けていますか?

 

どうして上記の聴取が必要なのか? 

 

胃全摘後の一般論:

ビタミンB12は、胃全摘後 数年~10年で枯渇してくる。*1

 

どうしてビタミンB12欠乏はマズいのか:

SCD (subacute combined degeneration, 亜急性連合性脊髄変性症)=脊髄後索・側索の障害=振動覚・固有覚の低下

 

進行すると認知症にも*2*3

 

神経学的異常は、進行した場合には、B12を補充しても不可逆なことも*4

 

 

 

本症例の続き:

胃全摘は10年前。B12補充はなし。最近よくふらつくけれど、「歳だからね」と本人もご家族も思っていた。

外来採血を見返すと、約3年前(=胃全摘後7年)から MCVが95→105→110→直近では123と上昇あり。

血小板も同じく18万→10万→直近では6万と低下あり。

下肢振動覚軽度低下。固有覚は異常なし。

胃癌術後に関しては「再発を認めないのでフォローは終了=終診」になっているとのこと。

(貧血work up施行の上で)、当院内科外来でビタミンB12筋注を行うことに。

神経所見が戻りますように。。 

 

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胃全摘術後(実は、胃部分切除でも*5)のB12欠乏は、帰国後、何症例も診ました。

あまりに長く認識されずに、神経所見がビタミンB12補後も改善しない方も診ました。苦しくなります。

 

胃全摘 (or 胃亜全摘)症例を、胃がんの再発がないからという理由で「終診」にすることがそもそも間違っていると常々思っていました。そのような症例をずっと外科で外来フォローすると外科外来がパンクしてしまうのかもしれませんが、ビタミンB12補充に関して患者さんを「誰かの手の中に確実に引き継ぐ」「患者さんにビタミンB12がいずれ枯渇してくる可能性を説明する」必要性を痛感しています。

 

このことに関して、とある有名な総合内科の先生と話題になった時があり「僕もまったくその通りと思ってます!!」と強く同意してくださり、非常に励まされたのを覚えています。

ぜひこれを読んでくださった先生、上記の箱の中の「一般論=5分間ティーチング=型」を、ご自分が知っているだけでなく、周りに啓蒙し続けてください。

1人でも、ビタミンB12欠乏(=treatable disease)で、不幸になられる方が減りますように。 

*1:Hospitalist 2015 vol.3 No.4 血液疾患 pp 803-813

*2:Pocket Medicine, 4th edition, LWW, p5-2

*3:UptoDate, Clinical manifestations and diagnosis of vitamin B12 and folate deficiency, This topic last updated: Jun 28, 2017.

*4:The Washington Manual of Medical Therapeutics 33rd edition p.724

*5:The Washington Manual of Medical Therapeutics 33rd edition, p.723

貧血のアプローチ

症例:70代女性。肺炎で入院時にHb 7.0 g/dLを指摘された。今後、どのように精査を進めればよいか。

 

貧血精査の一般論:

  1. 貧血精査は、網赤血球 Reticulocyteの測定(Reticulocyte indexの計算)から開始し、他の血球系の異常も確認(状況に応じて、末梢血液像を確認)
  2. MCVを確認
  3. 材料類(フェリチン、Fe、TIBC、B12、葉酸)
  4. 月経で失血しているわけではない患者(non-menstruating patients) の鉄欠乏性貧血 (IDA)認めたら、必ず胃カメラ大腸内視鏡検査(=消化管悪性腫瘍の検索)を考慮 

 

’non-menstruating patients’ = 男性、(閉経後など)現在無月経の女性  

 

特に強調しておきたいのは、非月経患者の鉄欠乏性貧血の患者に対して、「鉄剤を開始して、改善しなければ上下部内視鏡」というプラクティスをしない、ということ。65歳以上の鉄欠乏性貧血の患者の9%(約11人に1人!)に、消化管の悪性腫瘍が見つかったというデータ*1がある。

したがって、鉄欠乏性貧血の原因が明らかではない場合には、必ず内視鏡を勧める(患者さんと相談する)必要がある。

参考:鉄欠乏性貧血のフローチャート(Am Fam Physician. 2007;75:671.)

 

貧血全体におけるwork upのフローチャートは、Hospitalist 血液疾患 vol.3 no.4 2015 pp.803-813.にすばらしい図があるので参照してください。

 

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CV(中心静脈カテーテル)抜去時の注意点

症例:70代男性。敗血症性ショックの管理のために、右内頸静脈から中心静脈カテーテルを挿入されていた。ショック離脱し、カテコラミンを離脱できたため、本日カテーテルを抜去することとした。抜去のときに注意すべきことは?

  • 空気塞栓を予防するために、必ず仰臥位(できれば下肢を挙上 or Trendelenburg体位)で抜去 
  • できれば呼気の途中 or 吸気後に息を止めて(valsalva)抜去
  • 抜去後すぐに穿刺部に密閉性の高いドレッシング材を貼って、その上からガーゼ圧迫(5分以上)する
  • 呼吸努力が強い、血管内脱水、太いカテーテルはリスク

 座位で中心静脈カテーテルを抜去したため、血管内に空気が流入し、空気塞栓を発症した事例が報告されている*1

死亡事例の報告もあり、空気塞栓は、カテーテル挿入時だけでなく、抜去時にも起こることを知っておき、出来る限りの予防手段を講じるべきである。

中心静脈は胸腔内にあり、陰圧になって空気を引き込むことがあるため、このような注意が必要である。

 

空気塞栓の臨床像は?

肺塞栓、脳梗塞、脊髄梗塞などの報告がある。

カテーテル抜去時にこれらの症状が出た場合には、空気塞栓を強く疑う

起こってしまったら治療はどうすればよいか。

左側臥位かつTrendelenburg位を取り、SpO2 100%酸素投与を開始する

この体位にすることで、右室心尖部に空気をとどめておくことが出来ると言われているが、厳密には検証されていない。

100%酸素を投与にすることで、空気の吸収速度が早まる可能性がある。

とはいえ、「空気塞栓を起こさないように最善の策を講じる=絶対に仰臥位!!」が大前提です。

 

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破傷風トキソイドの適応

サンプル症例

 30代男性が、バイク単独事故で搬送された。JATECにのっとって診療し、全身の擦過傷はあるが、骨折はなかった。

 

Q:破傷風の予防のために、何を評価すればよいか?

傷があるときには、

①きれいな傷かそうでないか、を診察 

②規定の3回/追加接種を含めた、最後の破傷風ワクチン接種歴を聞く。 

破傷風トキソイド・テタノブリンの適応を判断する。

④圧倒的大前提として、傷の開放・洗浄=嫌気環境を作らない

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5分間ティーチングとは_本ブログの使い方

本ブログの使い方

 

このブログは、

患者利益を最終目標として、日々の臨床業務を抜けなく安全に回せるようになるために必要な、覚えるべき知識

 を整理して発信することを目的としています。

そのため、細かいエビデンスにこだわった内容ではなく、妥当性のあるエッセンスに絞っています。

引用するのは原著論文ではなく、敢えてUptodate®や代表的な書籍、医学雑誌、ガイドラインにしています。なぜならば、それが私が実際に(大阪日赤時代もシアトルのレジデント時代も)臨床の隙間時間で吸収してきた方法であり、今後もそうして生涯学習してゆく道だと思うからです。

細部において、議論の分かれる内容があるかと思います。しかし我々は、そういった非常に細部の議論を延々と繰り返すことよりも、「患者利益に直結する重要な知識を、幅広く抜けなく覚えていく」ことの重要性を感じています。

 

当ブログでは、サンプル症例を提示した上で、実際の臨床をイメージしてもらい、

最初に、質問に対する回答の形式で、「最重要事項」=「型」=「5分間ティーチング」をシンプルにまとめています。

そらで思いだせる必要のある最重要事項のみを、箱の中に書いてあります 

その後に記載してあることは、その内容を理解するための解説事項ですので、すべて覚える必要はありません。「●●を除外しなければいけなかったはず」のように「思いつきさえすれば」患者利益につながる事柄がたくさんあります。そのエッセンス=5分間ティーチングを覚えることに集中してください。