Dr.Yukaの5分間ティーチングブログ

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 救命救急センター 北野夕佳の5分間ティーチング連載ブログです。日々の臨床で必要な知識を「型」として蓄積するブログです。

腎盂腎炎の型

腎盂腎炎の型 Pyelonephritis:シアトルの時の私の型:

  1. Causative pathogens: GNR (E.coli (80%), Klebsiella, Proteus), Enterococcus, Staph saprophyticus
  2. Rule in for Pyelonephritis: CVA tenderness, suprapubic tenderness, U-WBC, U-GS
  3. R/o obstruction
  4. DDx: urethritis, prostatitis
  5. May take 48-72 hrs for fever resolution
  6. r/o resisant pathogens, STIs, obstruction, perinephric abscess, renal abscess, emphysematous pyelonephritis if not improving. 
  7. If Staph aureus from UCx and BCx, consider primary bacteremia. 

 

腎盂腎炎の型です。

覚えるのは上記だけ。

理解するために下記。

 

 

65歳男性、もともと糖尿病高血圧。今回は熱発・悪寒で総合内科外来受診し、尿中WBC>100/HPF, 尿のグラム染色でグラム陰性桿菌(++)であり、腎盂腎炎の診断で入院。 セフォチアム(第二世代セフェム)点滴投与。 

入院2日目だが38度台の熱発続くため、内科当直のあなたにコールあり。 
ナース「38度以上でDR.コールなんですけど。クーリングで経過観察でいいですか?」

 

 

  1. Causative pathogens: GNR (E.coli (80%), Klebsiella, Proteus), Enterococcus, Staph saprophyticus
    起因菌は、上記くらいは覚える。
    自然に、その施設のE.coliのantibiogramを見なきゃと思えるようになる。

  2. Rule in for Pyelonephritis: CVA tenderness, suprapubic tenderness, U-WBC, U-GS
    腎盂腎炎です」と診断(comit)するために、CVA叩打痛、恥骨上圧痛(←膀胱炎)、尿中WBC上昇、尿グラム染色で菌がいることの確認。

  3. R/o obstruction
    閉塞機転の除外。腎エコーでもCTでも妥当。
    関連のある陰性所見(pertinent negatives/positives)として、
    今までに腎盂腎炎になったことは? 尿路結石と言われたことは?の把握は必須。


  4. DDx: urethritis, prostatitis
    尿中WBC上昇していて、細菌尿なので「腎盂腎炎です」ではなくて、尿道炎、前立腺炎じゃないよね、も忘れずに。

  5. May take 48-72 hrs to fever resolution

    一般論① 腎盂腎炎は、抗菌薬が適切でも解熱に48-72時間かかることもある。
    一般論② だからといって、熱が出てもただ放置ではなく、Septicになっていないかの評価必須。
    前回の誤嚥性肺炎の時と同じ。
    熱型(Tmax),RR, 意識レベル、HR、BP、悪寒戦慄の有無を把握し「悪化していないことを把握しつつのclose observation」 
    例:もともとSBP160/であった人が降圧薬ホールド中にもかかわらずSBP100/ に低下してきていればsepticになっていると有意と取らなければならない。 

  6. r/o resisant pathogens, STIs, obstruction, perinephric abscess, renal abscess, emphysematous pyelonephritis if not improving. 

    改善してこないときの思考過程:
    • 抗生剤があたっていないのか→ グラム染色の結果、感受性結果など確認  例;Enterococcusならセフェムは効かない、E.coliがESBLだった、など。
    • 抗生剤の量が適切でないのか→ 腎機能での用量調製を確認  例;入院時脱水でCre↑あり、その腎機能で調整した抗生剤量で開始→補液で腎機能改善したにもかかわらず調整しなおしていない、など
    • 腎盂腎炎の合併症をきたしていないか

      → 閉塞機転水腎症が後から明瞭化する症例もあり)、腎膿瘍(renal abscess)、腎周囲膿瘍(perinephric abscess) 

    • もし重症糖尿病患者なら?→ 気腫性腎盂腎炎の可能性あり。 →鑑別に挙がれば自然に最近の血糖コントロールHbA1cの情報を収集する必要を感じるはず。
      →上記を頭に入れれば「なんとなく良くなってないからCTとります」ではなくて、「抗菌薬開始48時間後ですが、悪寒戦慄続きます。腎膿瘍、閉塞、気腫性腎盂腎炎除外目的でCTをとります」という思考過程ができるはず。
    • そもそも腎盂腎炎でいいのか? 

          1)前立腺炎STI)からの膿尿ではないか? 下記
                           2)菌血症からの二次的な細菌尿なのではないか?
          3)一度解熱して再度熱発なら、薬剤熱 
              入院後発症の痛風発作?  ∴全身診察必要。

  7. If Staph aureus from UCx and BCx, consider primary bacteremia. 
    別項:

    尿から 黄色ブドウ球菌陽性の時の型 - Dr.Yukaの5分間ティーチングブログ

     参照

 

〇男性尿路感染(尿中WBC ↑↑)の鑑別:

腎盂腎炎、膀胱炎、前立腺炎尿道

起因菌のめぼし

     >35歳;普通の尿路感染の起因菌(=上記のE.coli, Kleb, Proteus,,)

     <35歳:STIの起因菌(すなわちGC/Chlamydia GC=淋菌、Chlamydia=クラミジア) STI = sexually transmitted infection

 

 

 

症例続き:

左CVA叩打痛(+)であり、再度エコー施行したところ、左腎盂の拡張が入院時よりも著明に。左膀胱尿管移行部に結石とおもわれる所見あり。 閉塞機転と考えて、Double Jカテーテル泌尿器科に依頼して挿入 → 挿入時に混濁した尿流出、尿のグラム染色でもグラム陰性桿菌(++)。

熱発もすみやかに改善した。   

 

(平凡な症例からも、起こりうる可能性のあることを広げて教える、という意味で、あえて平凡な症例にしました。 )

 

 

 

参考資料: 

Hospitalist 2015;vol.3: no.1 pp.258-266 北野の5分間ティーチング連載 腎盂腎炎バージョンで、引用文献はこれに逐一載っていますので、記載部位を見つけたい方は参照してください。