Dr.Yukaの5分間ティーチングブログ

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 救命救急センター 北野夕佳の5分間ティーチング連載ブログです。日々の臨床で必要な知識を「型」として蓄積するブログです。

心房細動_前半

【今回はうちの吉田稔Dr.が書いてくれました。非常に実用的!ぜひ使ってください】

 

Generalistのための心房細動マネージメント:超基本その1

心房細動の罹患率は1%を上回ると予想されています。もはや循環器内科だけがみる疾患ではなく、研修医、一般内科、救急医も診断・緊急対応・管理に関して押さえておかなければならない。

 

0〜2は診断・緊急対応・原因精査を前半、3〜5は心房細動の治療に関して後半とし、2部構成で説明します。詳細は、新・総合診療医学病院総合診療医学編第3版の『心房細動』を参照にしてください。北野先生と当科の循環器集中治療専門医の吉田徹先生に監修してもらい当科としては夢のコラボです。

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0-1. AFの診断:AFか?

AFは心電図で診断する[3-5]。

⑴ R-R間隔が全く不整(絶対性不整脈と呼ばれる。)

⑵ 明瞭なP波の消失

⑶ 細動波(f波)の存在(f波:300-600 bpm

 

 

AF心電図診断のコツ

  • 頻脈の場合はわかりにくいので一番R-R間隔が広い所と狭い所を比較する。
  • ⑵・⑶は判別しやすいV1・Ⅱ誘導でチェックする[3]。慢性AFの場合⑶がないこともある。

 

0-2. AFの分類:いつ起きたか?

AFの分類[4-6]は、持続時間と洞調律に戻るかどうかで分けられている。時間経過によりⅠ→Ⅱ→Ⅲ→Ⅳに移行する。

Ⅰ. 初発AF:心電図上初めてAFが確認されたものを指す。無症状の例も多く、初発であるかどうかは多くの場合判断できない。
Ⅱ. 発作性AF:発症後7日以内に洞調律に戻るもの。多くの場合は48時間以内に戻る。
Ⅲ. 持続性AF:7日を超えて持続するもの。
Ⅳ. 永続性AF:電気的・薬理学的に除細動不可能なもの。

 

慢性AFという用語が、長期にわたる持続性AFや永続性AFを指して慣習的に用いられる事があるが、その定義は明確ではないので、定義が明確かつマネジメントにも応用可能な、上記の分類Ⅰ-Ⅳも覚えて頂きたい。

 

  1. 頻脈性AFによる不安定化の判断と治療:緊急同期電気ショックは必要か?

 頻脈による不安定化を判断するために有用な覚え方として『いしき心配』がある(詳細は図2を参照[7])。これらの症状・徴候があれば、頻脈による不安定化と判断して、緊急同期電気ショック(2相性120〜200J)を考慮する[8]。なお、頻脈性AFによる不安定化が生じる場合は、通常HR 150 bpmを越えている時である[8]。不安定化がある場合、塞栓症のリスクがあっても電気ショックによる除細動が正当化されるため、早急に施行を考慮する[5](カルテ記載要)。 

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  1. AFに影響を与える基礎疾患の精査・治療

初発AF・精査されていないAF患者に行うべき診察・検査[3, 4]

問診:心不全症状(起座呼吸、労作時呼吸困難など)、動悸の頻度・持続時間・誘発因子、嗜好歴(喫煙、飲酒)

身体所見:呼吸数を含むvital sign、一般的な診察(特に心音(murmur)、S3、S4、呼吸音、下腿浮腫、甲状腺腫大、頸静脈怒張など)、腱反射

検査:心電図、胸部X線、経胸壁心エコー(弁膜症、心機能、心筋症、左房の評価)、心筋逸脱酵素(CK、CK-MB、トロポニン)、BNP甲状腺機能(TSH、fT4)、電解質(K、Mg、Ca)、腎機能、全血算、D-dimmer、HbA1c、血糖、尿検査

これらの症候や検査結果を踏まえて、AFを認めたときに検討すべき高頻度疾患や緊急疾患について、急性期(2-1)、慢性期(2-2)にわけて以下にまとめる。

 

  1. AFの発症や不安定化に影響を与える基礎疾患・病態(すぐに治療介入可能な原因に下線)[8, 9]

循環器疾患

 虚血性心疾患(急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定狭心症、労作性狭心症など)

 弁膜症(特に僧帽弁狭窄症)

  心不全・心房圧の上昇

 心筋症(肥大型心筋症、拡張型心筋症など)

  心筋炎・心膜炎

 血栓塞栓症

その他

 hypovolemia(出血、脱水など)

 貧血

 感染症

 低酸素血症(肺炎、心不全COPDなど)

 電解質異常(特に低K血症、低Mg血症)

 甲状腺機能亢進症

 薬物(アルコール、交感神経刺激薬など)

 

 

重症患者にAFを認めた場合、AFが原因でショックに至っているのか、全身状態が悪い結果AFになっているのか判断がつかないことを多く経験する。AFに伴う不安定化として同期電気ショックによる除細動を考慮することも重要であるが、治療可能な背景疾患を治療することも非常に重要である。別に原因がある場合、AFが同期電気ショックにより除細動されたとしても、再度AFになる可能性が高い。

 

例えば

敗血症性ショック+AF→抗菌薬、脱水補正の輸液、昇圧剤でのコントロールも同時に行う。

心不全+AF→NPPVによる呼吸管理、利尿薬、降圧など、低酸素の改善、心不全治療を同時に行う。

 

2-2. 治療・改善によりAF発症が減少する慢性疾患・生活習慣[2, 3]

高血圧、糖尿病、慢性腎不全、肥満、睡眠時無呼吸症候群COPD、喫煙

 

AFの治療だけでなく、これらの基礎疾患の管理が生命予後に影響を与えることがわかってきているので、基礎疾患の地味な治療も行う必要がある。[2]

 

 後半はAF自体の管理に関して、説明していこうと思います。次回も宜しくお願いします。

 

①      Reference

[1] Kirchhof P, Breithardt G, Aliot E, Al Khatib S, Apostolakis S, Auricchio A, et al. Personalized management of atrial fibrillation: Proceedings from the fourth Atrial Fibrillation competence NETwork/European Heart Rhythm Association consensus conference. Europace. 2013;15:1540-56.

[2] 山下 武. Revolution心房細動に出会ったら: メディカルサイエンス社; 2011.

[3] 赤尾 昌. これが伏見流!心房細動の診かた、全力でわかりやすく教えます。: 羊土社; 2017.

[4] Kirchhof P, Benussi S, Kotecha D, Ahlsson A, Atar D, Casadei B, et al. 2016 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation developed in collaboration with EACTS. Eur Heart J. 2016;37:2893-962.

[5] January CT, Wann LS, Alpert JS, Calkins H, Cigarroa JE, Cleveland JC, Jr., et al. 2014 AHA/ACC/HRS guideline for the management of patients with atrial fibrillation: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society. J Am Coll Cardiol. 2014;64:e1-76.

[6] 井上博. 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版). 2013.

[7] 寺沢 秀, 島田 耕, 林 寛. 研修医当直御法度 : ピットフォールとエッセンシャルズ. 第6版: 三輪書店; 2016, 46-52.

[8] American Heart A, 日本Acls協会, 日本循環器学会. ACLS EPマニュアル・リソーステキスト: バイオメディスインターナショナル; 2014, 147-173.

[9] Walkey AJ, Benjamin EJ, Lubitz SA. New-onset atrial fibrillation during hospitalization. J Am Coll Cardiol. 2014;64:2432-3.