Dr.Yukaの5分間ティーチングブログ

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 救命救急センター 北野夕佳の5分間ティーチング連載ブログです。日々の臨床で必要な知識を「型」として蓄積するブログです。

ICU管理の超基本 

ICU管理の超基本:

 

F Feeding

A Analgesia

S Sedation

T Thromboprophylaxis

H HOB30

U Ulcer prophylaxis

G Glycemic control

 

+Tubes & Lines

+De-ICUを忘れずに

 

  • Sedation vacation
  • If you can use the gut, use the gut.
    Parenteral nutrition→increased risk of infection.
    Prolonged NPO →increased risk of stress ulcer.
    Enteral epithelial atrophy→bacterial translocation
  • Glycemic control 140-180mg/dl (rather than 80-110mg/dl)
  • Transfuse if Hb <7.0 (in medical ICU pts without active bleeding or active coronary problems)
  • DO NOT FORGET REHABILITATION

 

ICU管理の超基本を先日やりました。覚えるのべき「原則・一般論・型」は上記だけです。

そのときのしゃべったことのニュアンスを全部書くのは困難ですが、上記が理解できるように、なるべく書いておきます。

 

F Feeding:

この方の栄養はどうなっているんだっけと考える。その時の一般論が下記:

  • If you can use the gut, use the gut.
    Parenteral nutrition→increased risk of infection.
    Prolonged NPO →increased risk of stress ulcer.
    Enteral epithelial atrophy→bacterial translocation

集中治療管理下でも腸管が使えるなら腸管をつかうのが原則(if you can use the gut, use the gut).

なぜならば、TPNは感染のリスクも上がる。腸管を使わないと腸管上皮が萎縮する。

もちろん、消化管穿孔・汎発性腹膜炎術後などで当分(例:1週間以上)腸管が使えなさそうなことが予測されるなら、経静脈栄養を開始するメリットの方が大きい。

 

A Analgesia

S Sedation

この方の鎮静/鎮痛のはどうなっているんだっけと考える。

鎮痛:フェンタニルモルヒネ

鎮静:ミダゾラムプロポフォール、プレセデックス

時代の流れは(私が研修医だった20年前など)、「鎮静=例ベンゾジアゼピン」だけで眠らせていた

→ 'analgosedation'の考え方が主流に=「鎮痛=例フェンタニル」を中心に。必要に応じて鎮静を追加。RASSー2目安。

ベンゾジアゼピンよりもプレセデックスの方がせん妄が少なそう(※2)。

(ただし、プレセデックスは血圧↓ 脈拍↓であり、敗血症性ショック極期などには使いにくいことも多い)

   

sedation vacation’を行う: 

daily awakeといわれることもあり、用語はどれでもOK。

「ずっと深鎮静のまま」ではなく、毎朝sedation(=例 ミダゾラム)をオフにして意識レベルを確認、可能ならその時にリハビリも合わせるとベスト。

どうしてずっと眠ってもらっていてはいけないの??

→ 鎮静が蓄積して、抜管できる状況になっても鎮静が延々さめないリスク

  意識レベルの評価や神経所見の評価ができない

 

T Thromboprophylaxis

DVT予防忘れずに:

ヘパリン皮下注vs フットポンプ (ICD interminttent compression device, SCD sequential compression deviceと呼ばれることも ※1)

H HOB30

ギャッジアップ30度を忘れずに ∵VAP予防

U Ulcer prophylaxis

消化性潰瘍予防を忘れずに (挿管管理48時間以上など)

G Glycemic control

血糖コントロール 140-180mg/dl (rather than 80-110mg/dl) 

 

 

+Tubes & Lines 

プレゼン(orカルテの最後)に、tubes& linesを必ず入れる=把握する。挿入日も含めて。

記載例:挿管チューブ(8/26)、右内頚CV(8/31)、左鼠径バスキャス(8/26)、尿道カテーテル(8/26)、右橈骨Aライン(8/31) 

 

+De-ICUを忘れずに

私がVMMCのICUローテーションでたたきこまれたのが この'de-ICU the patient' という概念。

私たちがICU管理で行っていることはすべて必要だったことであり、それがなければ救命できなかったのだが、「必要悪」だということを忘れないようにする。言い換えると必要なくなったらICU状態から解除してあげる(=de-ICU)ことが次の大事な仕事であることを認識する。

つまり、「挿管しているけれど、いつ抜管できるだろうか」「バスキャスは・Aラインは・CVラインは必要だったけれども、今日も必要だろうか」を毎日評価して判断する。必要ないと判断したらすみやかに抜去する。

どうしてde-ICUが次の大事な仕事なのか??

  • 長引く挿管管理→ VAPのリスク
  • 長引くバスキャス、CV、Aライン→ CRBSI (catheter associated blood stream infection)のリスク
  • 長引く尿道カテーテル→ CAUTI (catheter associated urinary tract infection)のリスク
  • 長引く鎮静→ ICU-AW (ICU acquired weakness)のリスク (∴リハビリ必須)
  • 長引くベッド上安静/不動化(immobilization)→ DVTのリスク (∴リハビリ必須)

「肺胞出血の血漿交換」や「体外循環」や「人工呼吸器の詳細なモード」などを詳細に習得することと同じくらい(時にはそれ以上に)この平凡な基本を抜けなく確実に (being thorough)行うことをVMMCのICUでは強調して教育され、私はそれは患者利益に直結すると実感しています。

 

ぜひ、使ってください。

 

【北野夕佳+ 藤谷茂樹ボス監修】   

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あまり重箱の隅ならぬように、すこしだけ。

※1: DVT予防のmechanical methods (フットポンプ)はエビデンスはあまりない。∴「フットポンプにしているから大丈夫」ではなくて、「ヘパリン皮下注にしたいけれど現時点では出血のリスクが高いため投与できない。その間はフットポンプにする。出血のリスクが問題なくなればヘパリン皮下注に速やかに切り替える」という思考過程を持つこと。同じくearly mobilization(早期離床=リハ)の重要性も再認識を。

 

※2:プレセデックスは、大規模StudyであるSPICE III studyでは有用性は実証されませんでしたが、せん妄に関してはベンゾジアゼピン類やプロポフォールよりは過去の論文では有用性が示されています(またエビデンス、変わるかもしれません)