サンプル症例:80歳代女性、10年前に関節リウマチと診断。現在、3年前よりPSL 6mg/日+免疫抑制剤を内服している。自宅で転倒し、右股関節痛、体動困難で来院。X線で右大腿骨頸部骨折と診断した。3日後に人工骨頭置換術を予定されている。周術期でのステロイドカバーはどうするか?
- 内服しているステロイドの量 (PSL換算)と期間(3週を超えるか?)、内服できていたかを確認⇒一般的に、PSL換算5㎎/日以上かつ3週間以上の内服でステロイドカバー必要 (注1)
- Cushing症候群の徴候(満月様顔貌、中心性肥満、皮膚の菲薄化、バッファローハンプなど)があれば、内服量・期間にかかわらずステロイドカバー必要
- 現在、急性副腎不全・副腎クリーゼの徴候が無いかを確認→あればステロイドカバー必要
副腎不全の徴候
→緊急時には、ヒドロコルチゾン 50-100mg div
ステロイドカバーの投与量は、侵襲度により異なるため、毎回下表などを参照すること。
(注1北野:ただし、症例報告レベルでは、吸入ステロイド、外用ステロイド、より少量のステロイドでも相対的副腎不全を来した報告はあり。術後に原因不明の低血圧、意識レベル低下など認めた場合には、このカットオフ(3週間、5㎎)だけを振り回さずに、臨床的総合判断も忘れぬこと)
侵襲(手術・疾患) |
ヒドロコルチゾン用量 |
1時間以内の局所麻酔の手術(歯科・皮膚生検、小さな整形外科の手術) |
ステロイドカバーの必要なし |
Minor ・鼠径ヘルニア修復 ・大腸内視鏡検査 ・中等度以下の嘔気・嘔吐・胃腸炎 |
(術前に)ヒドロコルチゾン 25mgを1回点滴静注、その後、通常のステロイド量へ (具体例:術直前にソル・コーテフ®25mgを点滴静注1回のみ) |
Moderate ・開腹の胆嚢摘出 ・半結腸切除術 ・関節置換術 ・肺炎・重症胃腸炎 |
(術前に)ヒドロコルチゾン50-75mgを1回点滴静注、1-2日かけて通常のステロイド量に減量 (具体例:ソル・コーテフ®50mg点滴静注、その後20-25mg/回を8時間ごと24時間投与、その後通常のステロイド量へ) |
Severe ・主要な心呼吸器手術 ・膵頭十二指腸切除 ・肝切除術 ・膵炎 |
(術前に)ヒドロコルチゾン 100-150mgを1回点滴静注、その後、50mg/回 6-8時間ごとに投与。1-2日かけて50%ずつ減量し通常のステロイド量へ (具体例:ソル・コーテフ®100mgを麻酔導入前に点滴静注、50mg/回を6-8時間ごとに24時間投与、25mg/回を6hごと24時間投与、その後通常のステロイド量に) |
Critically ill ・敗血症によるショック ・多発外傷 |
ヒドロコルチゾン 50-100mg/回を6-8時間ごと、またはヒドロコルチゾン100mg点滴静注後、200-300mg/day持続点滴投与(+原発性副腎不全の場合フルドロコルチゾン50μg/day)をショックが改善するまで継続。バイタルサインや血清Na値を見ながら数日から1週間以上かけて減量 |
jAMA, 287:236-40,2002、N Engl J Med. 348:727-34, 2003. Ann Surg. 1994 Apr;219(4):416-25.を参照し具体的に分かりやすく著者作成。
以下、解説↓
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