免疫不全、immunocompromised の型
免疫不全(免疫低下状態)の型
MDS:骨髄異形成症候群
CLL:慢性リンパ性白血病
MM:多発性骨髄腫
腰痛のRed flagにも、良くならない肺炎にも、緑膿菌のリスクファクターにも、「免疫不全」が出てきます。
これも「なんとなく」ではなく型にしてしまったほうが私は臨床がよりthoroughかつspeedyになると思います。何よりも、最終的に覚えるべき情報が(一元化されるので)減ります。
使ってください。
伝染性単核球症(疑い)の型:
EB virus , infectious mononucleosis 疑いで、実務を回す上で記憶せざるを得ないことだけ「型」にして書きます。
EB virus, infectious mononucleosis(疑い)の型
・ゲシュタルト:若年者(15~25歳ピーク)、発熱、咽頭痛・扁桃腫大、しんどい、肝脾腫、異形リンパ球
・診断は下記
症状/所見
検査所見:
- 異形リンパ球↑、肝酵素↑
抗体検査:当院(聖マリアンナ横浜市西部病院)では下記3つを提出 ※
VCA-IgM:急性期感染 (感染後3ヶ月くらいで陰性化) VCA-IgG:既感染 (感染早期から上昇するが、回復期により上昇) EBNA抗体:感染後に上昇。約6-8週間後に陽性になる=既感染の指標・ABPC, AMPCで皮疹 (Strep throat疑いで処方するときに注意)・Contact sports禁を説明し記録(∵脾腫→脾破裂)
成人はこれを参考にしつつ診断してゆくことになります。
参考文献
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/444-im-intro.html
2.Infectious mononucleosis UptoDate referenced on 5/27/2019
3.当院小児科医とのdiscussion
電解質異常の原因・鑑別の理解のためには何か成書を一度は読んでください(簡潔かつ必要十分という意味ではPocket Medicineが私はおすすめです)
その上で、実務を回す上で記憶しないと回らない型(=赤字青字)だけを、下記に書きます。
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高K, 低KのEKG変化
高K:借りテント長く暮らす北京(ペキン)
低K:借りなきゃ夕立ストームだ
高K → 借りテント(テント状T波:tentorial T wave、触ると「チクチクしそう」
「痛そう」なT波と覚える)
→ 長く暮らす(QRS延長、widening QRS)
→ ペキン(P波消失、disappearance of P wave)
かつ、この順番に出現することが多い。
低K → 借りなきゃ (カリウムが低いと)
→ 夕立 (U波出現)
→ ストーム (ST低下)
上記の「ゴロ」がなくても覚えられる人はぜひそのまま覚えてください。
私は(臨床業務上の必要を感じるにもかかわらず)4回覚えて4回忘れたあたりからゴロにしようと思いました。
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高K血症状の緊急マネジメント :BCG Dial K bolus(北野作成ゴロ)
B:Bicarbonte (メイロン®) ± beta stiumulant (ベネトリン®吸入)
C:Calcium (カルチコール®)
G:GI therapy
Dial:Dialysis, Diuretics
K:Kayexelate (カリメート®)
Bolus: Fluid bolus (生理食塩水など)
同じく棒暗記できてその記憶が定着する人はゴロを覚える必要はとくにないです。ですが、高K(例K 7.1)で目の前でVT short runを繰り返す症例を対応するような、こちらのカテコラミンが全開の状況では、上記は「知っていても抜けうる」ことを私自身は身をもって知っています。
また、「型」にすることで他の思考(どうして高Kになったのか、バスキャス入れてCE部に電話しなければ、等)に頭のCPUを使うことができますし、施設内でも方針を共有することができます。
理解を助けるために以下:
●カルチコール(カルシウム製剤)は、膜電位を安定化して不整脈を予防するため最初に投与する。
●下線の治療のみが、体外にKを排泄する治療。その他は細胞内にKを押し込むだけ。
●ベネトリン吸入は、重症の場合に使用する。喘息などで使用する約8倍量になる(例:10-20mgを4mlの生理食塩水などで希釈して10分で吸入)。頻脈注意。当院(聖マリアンナ西部)ではほとんど使っていない。VMMCでもほとんど使っていなかった。
●GI療法(Glucose insulin 療法)の処方例:
例1)インスリン10単位を10%ブドウ糖500mlに混注して1時間で投与(時間かかる)
例2)インスリン5単位+50%ブドウ糖(20ml/バイアルx3本)を静注(早い)
一般論としては インスリン1単位:ブドウ糖 5~10グラムが目安。GI療法後は血糖を必ずフォローすること(∵低血糖のリスク、DM症例なら高血糖のリスク)
●カリメートは、イレウスなど腸蠕動が病的に低下している状況では投与しない。
●メイロンを末梢静脈ルートから投与するなら、確実な太いルートから投与すること(∵アルカリ性であり組織障害性が強いので)
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低Kの補正の型
・低Mgチェック→低Mgを先に補正
・K補正(投与)は、消化管が使えるなら消化管を使う。
・K10mEq投与:血清K0.1mEq上昇が目安(下記必ず読むこと)
・急速な点滴K補正は、VT/Vfibのリスクあり、濃度・速度 慎重に。必ず点滴ポンプ使用。
・補正以外の選択肢も知っておく(K保持性利尿薬)
理解を助けるために以下:
・「血清Mgが低いと、腎臓でのK分泌↑で補正したKが保持されないとされる(*1*2ので、低Mgかつ低Kの時はMg補充を先におこわないと、投与されたKが保持されない」が原則(もちろん、低Kが重篤なら平行して補正)。
・If you can use the gut, use the gut. (低K補正でも栄養でも、腸管を使えるなら腸管を使う、が原則)
・消化管からの投与だけで不十分な場合(ほとんどそうだが)、点滴での補正も併用。
・Kの補正の時に アスパラカリウム★グラムではなく、常にmEqで把握/考えること。
・目安が「Kの10mEq補正投与で血清Kが0.1mEq上がる」。だが、この通りに行くことはない。だが上記の目安を知っていることで「入院時血清K1.9でしたので、本日K 40mEq投与で補正しています。明日フォローします」では「全く足りなさそう」なことが感触として身につくと思う。(もちろん、Kを4.0にあげるために「4.0-1.9=2.1mEq→本日210mEq投与します」とは絶対にしないように!!!)。時間を味方につける。例えばK1.9なら、60mEq投与してフォロー、どれくらい上昇したかをみて、次の投与量を決める。
・腎機能障害があれば、予想された以上にK上昇する。
・当院のセットオーダーは、慎重目に下記にしています。
中心静脈ルート:KCL注 20mEqキット 1キット=20ml
生理食塩水 80ml
1時間以上かけて投与(これで20mEq/hrの速度になります)
末梢静脈ルート:KCL注 20mEqキット 1キット=20ml
生理食塩水 500ml
2時間以上かけて投与(これで10mEq/hrの速度になります)
・UptoDateによると下記でした*3。
濃度: (いずれも、可能ならブドウ糖ベースでなくて生理食塩水が望ましい。∵Glucose→細胞内へのKの移動→一過性に低K悪化の可能性があるから)
1000mlバッグに入れるなら、K60mEqまで。
100-200mlバックで末梢ルートから投与なら、K10mEqまで。
100mlバッグで中心静脈ルートから投与なら、K 40mEqまで。
速度:
K 10-20mEq/hr以下がよいが、低Kが重篤(life threatening)なときは、40mEq/hrで投与される場合もあり(リスクベネフィットを考慮して方針決定すること)
上記の一般論を組み合わせて「思考=患者さんにベストな方法」を症例ごとに構築してゆくことになります。
参考文献:
Pocket Medicine 6th edition 4-10~11
大阪赤十字病院でのteaching
VMMCの時のteaching
UptoDate Treatment and prevention of hyperkalemia in adults. referenced on 2019/5/20.
入院時指示の型=日々のラウンドの把握すべきことの型
私はADCVADIMAL Callで覚えました。
A:Admit to (入院科、病棟)
D:Diagnosis (入院時診断)
C:Condition (状態:stable, unstable, critical など)
V:Vitals (バイタル測定指示、q4hr、4検など。体重測定、血糖測定も)
A:ADL (安静度)
D:Diet (食事、絶飲食、経管栄養など)
I:Ins & Outs
In:点滴指示
Outs: 尿測、あらゆるドレーン、NGチューブ、ストマ、
M:Meds (内服薬、点滴抗菌薬など)
A:Allergy (アレルギー)
L:Labs & images (採血、レントゲン、EKGなどの指示)
Call: コール基準
HR, BP(+昇圧剤上げ下げ指示)
BT(熱発時指示)
SpO2(+O2上げ下げ指示)
血糖(+スライディングスケール指示)など
当院、この連休中に電子カルテ導入になりました。
「産みの苦しみ」でいずれは元よりも楽になるはずだと信じたいのですが、「どこに何があるのかわからない(=実際にない!! 体重が看護師さんは測定して入力したはずなのだが表示されない。血糖が表示されない。現在の内服薬が反映されない)」ことに日々看護師さんとともに皆で格闘しています。
そのときに、久しぶりにシアトルでの共通言語だったADCVADIMAL callを思い出し、実際に自分を助けてくれました。
「私がほしい情報」が自分の中に型としてあって、それを探しに行くことが自分を/自分の診療を守ってくれることをこの数日、痛感しています。
また、研修医1年目を見ていて、日々の患者把握で「どの情報をとってきたらいいのか/把握すべきなのか」はほぼ上記(+もちろん診察)であり、そういう意味でも使うべき型と思います。
研修医の先生、聞かれること(=指導医が聞きたいこと=把握すべきこと)とほぼ同じでしょ?
D:診断は?
C:で、状態良くなってるの?悪くなってるの?
V:バイタルは?熱は?血糖は?体重は?
A:今、リハでどれくらい動けてるの? ジムリハできそう?
トイレまで歩けてる? 家、帰れそう?D:ご飯、何をどれくらい食べられてる? 嚥下は?
I:In &Outどう?
尿でてる?
膿瘍ドレナージから昨日何ml出た?色は?
NGからの排液は?色は(赤い?黒い?胃液様?)
ストマから排便/排ガスあった?
ドレーン、全部で何本?それぞれどこに入ってるの?M:今の内服は? (+もともとの内服は?)
今の点滴は?
L:採血結果は? EKGどうだった? レントゲン良くなってる?
Call:何かバイタル指示引っかかって呼ばれた?
RIMEで、まず研修医/シニアの先生は、確実なReporterにならないと話になりません。
ぜひ、使ってください。
RIME
R: Reporter
I: Interpretor
M: Manager
E: Educator
消化管出血マネジメント GI bleeder: シアトルの時の施設共通の型
- Two large bore PIV(太い=18G以上の静脈路を2本以上確保)))
- Fluid bolus if signs/symptoms of hypovolemia(hypovoemia疑うなら、補液ボーラス)
- Serial Hct q2-6hr(Hctを経時的フォロー)
- Type and cross, order PRBC(血液型・クロスとRCCのオーダー)
- Admit to telemonitor (モニター付けて入院)
- Vital q1-3hr(バイタルは頻回にフォロー)
- Give PPI to all GIB until proven not to be from UGIB(上部消化管出血の否定までは、全例PPIを投与)
- Correct coagulopathy(凝固異常があれば補正する)
- Call GI(消化器内科call→GF/Angio/手術の選択を依頼)
- NPO(絶飲食。経口投薬は基本的にホールド(ただし必須薬の場合、例外はあり))
- 直腸診
理解のために、以下書きますが、
覚えないといけないことは赤字/青字のみ。
★下血だから下部消化管出血だよね?
→UGIBでも出血量が多いと、消化されずにそのまま赤色になることに注意。
★鑑別は?
下部消化管出血
上部消化管出血
その他
→Shock index = HR/SBP
Shock index>1.0つまり HR>BPは、出血量>1L以上と言われている。「バイタルの逆転」とも言い、一般的に出血性以外のショックであっても、(sBP >90で保たれていても)血圧低下の前兆として認知すべき状態。つまり、一般的に血圧が低下する(ショックになる)前に、脈拍が増加することが多い。
→出血性ショックの前兆として、⑴起立性低血圧 ⑵頻脈があることを知っておく
→頻脈になれない患者でないかを必ず確認。βb(βブロッカー)・CCB(Ca拮抗薬)・ジキタリス内服中、PM(ペースメーカー)挿入中、房室ブロックなど徐脈性疾患など
問診:消化性潰瘍の既往、直近のGF/CF歴、検診受診歴、放射線治療歴、腹部手術歴(大血管含む)、嘔吐・吐血・心窩部痛の先行の有無、市販薬含めた鎮痛薬内服歴、体重減少・食思不振、今までの吐血・下血歴、飲酒量
身体所見:眼瞼結膜の貧血、手掌蒼白、心窩部圧痛、肝硬変の身体所見
→急性のGIBで24時間以内はHb低下しないことあり。
Hbが低下するのは、出血後、3rd spaceから水分が血管内に移動して(=希釈されて)から。
オレンジジュースをコップから3分の1こぼしても、オレンジジュースの濃さは変わらない。元の分量まで水を追加してはじめて薄まる(=Hbが下がる)と考えると理解しやすい。
★NGチューブで洗う?
(いれば)消化器内科医と相談。局在診断には有用。鮮血→活動性出血、黒色→最近のGIBだが、GIB除外とはならないこと、食道静脈瘤の可能性があるなら要注意であることは知っておく。
NGチューブでの胃液の色の型 (信号と同じと覚えると覚えやすい 参考文献1)
黒(Coffee ground)→最近の出血
赤(fresh red blood) →アクティブな出血
黄(gastric content)→ 胃液だが胆汁は混ざっていない=幽門以遠からの液体は混ざっていない=十二指腸からの出血は否定できない。
緑(bilious content)→ 胆汁の逆流あり=幽門以遠からの液体が混ざっている=十二指腸も含め上部消化管の現時点の出血なし。
注意:「現時点での出血」の評価であることを忘れずに(例えば、胃潰瘍からの活動性出血があったが、すでに自然止血しているという状況も考えられる)
★RCC 2単位輸血と大量補液でHb 7.0→7.9に上昇。Hb上がってるし順調だよね?思考過程は?
RCC2単位輸血=Hb 1.5↑が目安。予想していた、Hb上昇より少ないことから考えることは、①出血が持続している ②大量補液による希釈 を考える。
→ワンポイントではなく、時間を味方につける。バイタルとHctを経時的フォロー
★直腸診でのグアヤック(便潜血)の提出は必要?
原則は、便の色の肉眼的判断が優先。(しかし、フェロミア便だったり、色が紛らわしいときに判断の助けにはなる。Up to dateでは施行を推奨なので、行っても間違いではない。 )
<参考文献>
耳で聞いたら、記憶に残りますからね。うちのティーチング動画上げておきました。
サンプル症例: 50歳男性、悪寒、微熱、全身倦怠感で内科外来受診。 各種精査しCVA叩打痛は微妙にあり。尿中WBC 30-49/HPFであり、腎盂腎炎の診断で入院、抗生剤セフォチアム開始。
アセスメント/プランは? 考えるべきことは?
一般論:
尿培養から 黄色ブドウ球菌(MSSA or MRSA) が検出されれば、尿路感染症ではなく、菌血症からの膿尿・細菌尿ではないかと考えること。
そのためには、尿路感染の一般的な起因菌を把握していなければならない。(妙な菌が出ていると気付けなければならない。)
一般論: 尿路感染の頻度の高い起因菌は?
通常の尿路感染なら:
E.coli, Enterococcus、Klebsiella, Staph saprophyticus,
カテーテル留置症例なら:
上記ぷらす Pseudomonas, Proteus mirabilis など。 黄色ブドウ球菌もカテーテル留置症例ならありうる。
MSSA(MRSAもあり)の何らかの菌血症(IE, 硬膜外膿瘍、化膿性脊椎炎、Psoas abscessなど)を、尿中WBC陽性、尿培・血培から MSSAを根拠に腎盂腎炎としてpartial treatmentされて悪化してから最終診断される症例は散見され、最大限回避すべきと考える。
尿培養・血液培養からMSSA陽性なら、まずは必ず血液培養フォロー、持続的菌血症なら IEなどの可能性がより高くなる。IEなどの感染源が特定できない場合には(例:慢性尿道カテーテル留置症例でMSSA尿路感染でもあり得る状況で、MSSAの尿路感染症と判断=commitする としても)抗生剤終了後必ず血液培養再検を。
知っていることで運命を変えてあげられる患者さんがいます。
自分が知っているだけでなく、周りにも知識の共有を。
参考資料:
Hospitalist 2015;vol.3: no.1 pp.258-266 北野の5分間ティーチング連載 腎盂腎炎バージョンで、引用文献の、記載部位を見つけたい方は参照してください。