(だんだん、書きたいことが多くて長くなってしまいました。時間がなければ、箱の中の「型」だけ活用してください)
サンプル症例1:前回のTreatable dementiaにアルコールが出て来たけれど、何を聞けばいいの?(内科外来パターン)
サンプル症例2: 特に既往のない40歳男性が、同僚と飲酒していて、急性アルコール中毒・意識レベル低下・嘔吐で搬送された。補液のみで症状は軽快し、翌日退院の方針となった。この症例のアルコール乱用リスクの評価は? (救急パターン)
アルコール症の「型」
①(当然ながら)飲酒量の把握
② 飲酒にまつわるトラブルの有無を問診
③ アルコール依存症のスクリーニングはCAGE questionareが便利:
C: cut down: Have you ever felt you need to cut down on your drinking?
飲酒量を、減らさないとと思ったことは?
A: annoyed: Have you ever been annoyed by the criticism about your drinking?
まわりから飲酒を非難されて苛立ったり、不快に思ったことは?
G: guilty: Have you ever felt guilty about your drinking?
飲酒について後ろめたく思ったことは?
E: eye-opener: Have you ever had drink first thing in the morning to get rid of hangover?
二日酔いがひどくて朝から飲酒せざるを得なかったたことは?=迎え酒
危険飲酒をスクリーニングするためにはAUDIT(-C)が有用
④ Alcohol abuse(アルコール乱用) とalcohol dependent(アルコール依存)の概念を。
忙しい内科外来・救急外来~救急入院で、アルコール乱用・依存に関して「詳細」を把握するのは「言うは易く行うは難し」だと私自身思っています。
だからこそ「簡潔な型」にしてしまう必要性を感じています。
上記① アルコール摂取の量の把握は普通どうりでいいと思います。
上記② 飲酒にまつわるトラブルはどう問診したらいいでしょうか?
答えを見てしまうと当たり前に感じられると思いますが、これらを脳幹反射的に思いつけて実行に移せることが重要と私は思っていますし、シアトルでもそれを要求され続けました。
「アルコールのせいで社会生活に支障をきたしたことがないか」なので、
「飲酒運転などで捕まったことは?」
「飲酒のせいで家族ともめてないですか?」
「酒の席でけんかになったり、誰かとトラブルになったことはないですか?」
などのclosed ended questionでさっさと聴取してしまいましょう。
上記③
注意点は、CAGEは、「現在のアルコール依存のスクリーニング」には優れていますが、
AUDIT、AUDIT-Cの方が「今後アルコール依存症になるリスクも含めて」の評価に適しているらしいです*1 。
AUDITに関しては、アサヒのwebページに計算できる便利なサイトもみつけました。
ただ、AUDIT(-C)はなかなか空で思いだせず、私はいまだにCAGE questionnaireを使っています。
いずれにしても、何らかの方法で「時短でリスクを評価する」ことを実行に移すことが重要と思います。
上記④
Alcohol abuse(アルコール乱用) とalcohol dependent(アルコール依存)の概念を。
私がシアトルのレジデンシーで目から鱗だったのが「で、Yukaは、この人はalcohol dependentだと思うの? Alcohol abuseだと思うの? あるいは両方?」という議論がよくなされていたことです。この概念は、当時のIn the ClinicのAlchol Useの記載で確認し、なるほどと納得しました。
具体例があった方がわかりやすいと思いますので、以下です:
Alcohol abuse(アルコール乱用) =アルコールのせいで社会的・個人生活的に支障を来たしている。(例:家族の崩壊、バーでけんかして骨折、飲酒運転でつかまる、仕事続かない)
*WHOでは、危険な飲酒 hazardous drinking⇒有害な飲酒 harmful dringking⇒アルコール依存症 alcohol dependent の3段階が設定されています。Abuseは、危険な飲酒+有害な飲酒を含む概念です。*2
Alcohol dependent(アルコール依存)= 身体的にアルコールに依存。飲まないと手が震える、朝、迎え酒が必要、離脱症状が出る、など。
一番の注意点は、
「dependent」でなくても「abuse」の人もいる、という概念を医師が認識していること、だと私は思います。
つまり「別に何日か飲まなくてもなんともないから、俺は/私は アルコール依存なんて無縁」と思っている人がいたとします。でももし「アルコールのせいで離婚した」「飲酒運転で捕まった」「居酒屋で殴り合いになった」などがあれば、それは立派な「alcohol abuse」であり、介入対象という認識を持つ必要があります(シアトルでそうトレーニングされました)。
とある患者さんのご家族から「私達の言うことは一切聞かないから、先生の方から『酒止めないと死ぬよ』とキツく言ってください」と懇願された経験が、大阪日赤時代にありました。その時には私は上記の概念がなく、なんとなくそのままにしたことを、後悔と共に思い出します。
シアトルで「alcohol abuse」「alcohol dependent」の概念を指摘されたときに、その患者さんとご家族のことを瞬時に思い出し、自戒の念に駆られました。
「知らないこと」および「自分が知らないことの自覚がないこと」はこわいですね。私自身もまだまだ「知らないのに気付いていないこと」があるのだろうと思います。
みんなで成長しましょう。
今回のブログが、皆さんと皆さんの診る患者さんに活用されれば幸いです。
追記:
もっと詳しく掘り下げたい方は、JHN hospitalist networkのwebに筑波大学の五十野博基先生が作成された、アルコール問題のすばらしいまとめスライドもありますので、是非見てください。