Dr.Yukaの5分間ティーチングブログ

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 救命救急センター 北野夕佳の5分間ティーチング連載ブログです。日々の臨床で必要な知識を「型」として蓄積するブログです。

低酸素の型:病態生理

先日、基本に帰って低酸素の型のティーチングをやりました

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院救命救急センター

 

「理解するため」には文字数がいりますが最終的に「覚える」のは箱の中だけです。

 

低酸素血症の原因(病態生理)は、下記の5つ

  • FiO2↓ 
  • hypoventilation(肺胞低換気)
  • A-a DO2↑
  • V/Q mismatch(換気血流不均衡 V=換気、Q=血流)
  • Shunt

 

 解説: 

例えば、「右肺1/2程度の胸水貯留」の症例がおられたとします。
「胸水で低酸素です」だと思考が構築されません。VMMCのICU回診で上記をいつもやった記憶がありますが、最近そこまで基本に帰っていませんでしたが、やっぱり基本に帰ろうと思うことが二つありました。

 

ひとつめ:

則末先生らの「人工呼吸管理レジデントマニュアル」(←すばらしいです!!)の書評を依頼される機会があり、全部読ませていただいたところ、私と則末先生が働いた病院は全くかぶっていないにもかかわらず、上記の全く同じ型が記載されていました。

ふたつめ:

ACP年次総会(IMM2019@フィラデルフィア)のCritical Care Updateでも、上記の「超基本」をCritical Careのファカルティーがしゃべっていました。基本/病態生理(しかも全米共通!!)が徹底されているのは、重要ですね。

 

で、胸水の症例に戻ると「胸水」が低酸素を来すわけではないですよね。胸水による圧迫虚脱した部分の肺が、V/Q ミスマッチ(完全に虚脱していればシャント)になり、そのことで低酸素血症になります。いずれ、HPV(Hypoxic pulmonary vasoconstriction)が起これば、低酸素血症の程度(=酸素需要)が改善するかもしれません。

 

各項目に関して、

しゃべったことを全部書き落とすのは無理ですが、なるべく書いておきます。

● FiO2が低下する病態は?

  • 高山、地下の炭鉱など。
  • 医療の場では?私が思いつくのはdiffuion hypoxia(吸入麻酔の後)

● 肺胞低換気かどうかの評価は?

一般的にはPaCO2で評価。

肺胞低換気では、まずPaCO2↑する。最後までPaO2(SpO2)↓しない。

→∴「『低換気』が問題なとなる症例では、SpO2だけでフォローしていると急変しうる」を知っておくこと!!!!

「低換気」が問題となる症例の代表例は?

  • ギランバレー
  • 皮膚筋炎
  • 重症筋無力症のクリーゼ 
  • 脊髄損傷 など

じゃ、上記は何でフォローしたらいいの?

PaCO2, 肺活量やMIP, MEPでフォローしなければと思いつくこと
MIP:Maximal inspiratory pressure
MEP:Maximal expiratory pressure 

 

●A-aDO2開大する病気の例は?

間質性肺炎が代表的だが、

心不全など間質の浮腫を来す病態でもA-aDO2は開大する。

 

●V/Q ミスマッチ

 Low V/Qの代表例:(血流Qは来ているに、空気Vが不十分)

       =肺胞内が「べちゃべちゃ」

       =べちゃべちゃの原因: 
          水(心不全)、膿(肺炎)、血液(肺胞出血)など。

       →究極には(Vが全くなくなると)シャント

 High V/Qの代表例:(空気Vは来ているのに、血流Qが不十分)

        =肺塞栓

 

●シャント

   Low V/Qの究極のシャント(肺病変)だけでなく、心臓の右→左シャントや、肺AVMによるシャントもあり。「シャントはFiO2をあげてもPaO2 (SpO2)上昇しない」が一般論。

 

参考文献:

1. MIP,MEPが理解しにくい人は UptoDate Respiratory muscle weakness due to neuromuscular disease: Clinical manifestations and evaluation 参照。

2.V/Qミスマッチが理解しにくい人は 人工呼吸器レジデントマニュアル p.94~参照

3.HPVは、UptoDate One lung ventilation: General principles参照。

4.VMMCの時のベッドサイドティーチング用↓↓ 口が回らないからこそのYukaノート 
    病態生理は、変わらないですし、病態生理は一生モノです。

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