Dr.Yukaの5分間ティーチングブログ

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 救命救急センター 北野夕佳の5分間ティーチング連載ブログです。日々の臨床で必要な知識を「型」として蓄積するブログです。

TRALI (Transfusion-related acute lung injury、輸血関連急性肺障害)

数週間前に、他科の患者さんで、血漿交換後に急性に呼吸不全を呈してお手伝いした症例がありました。もともとRoom air→急性呼吸不全となり8Lリザーバーで92%、CXRで両側肺水腫(++)。典型的なTRALIと思われます。私も医者人生で2例目です。頻度が少ない疾患だからこそ「型」で定着させましょう。

TRALI の型:

(Transfusion-related acute lung injury、輸血関連急性肺障害)

  • 概念:輸血中or後の6時間に起こる急性両側性肺水腫/肺障害
  • 輸血中の呼吸不全を見たら、TRALI, TACO, アナフィラキシーを疑う → 心不全の評価、アナフィラキシーの評価、他のARDSの鑑別(※1)
  • 即、輸血中止→ 血液バッグ残しておく(重要!)
  • 治療はARDSに準ずる(※2)。
  • 輸血室or血液センターに連絡して指示に従う(→輸血前/後の血液検体提出を指示されるので、残検体を残しておくよう検査室に連絡する:重要!) 

 

 

※1 のために、ARDSの原疾患の型「ARDSPT」を使います↓↓

※2 ARDSの標準的治療は?も書いてあります。 ↓↓

型同士がつながってくるでしょ?

【ARDSの型_超基本】

http://ykitano5min.hatenablog.com/entry/2019/06/04/150130?_ga=2.237047808.1679875116.1576114528-755407075.1542280505

 

日本赤十字社のWEBにも、ARDSの誘引として評価するべきより広いリストが載っています(出典2)

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上記の型をteachingしたら、うちの超優秀な後期研修医跡部かおり先生が下記をまとめてくれました。

『理解』するためには下記、最後に頭に入れる『型』は上記。皆で成長しましょう。

 

【Transfusion-related acute lung injury (TRALI)】
輸血中もしくは輸血後まもなく起こる急性の呼吸不全。輸血に含まれるドナーの白血球や抗好中球抗体で起こるとされている。症状:輸血中or輸血後急性の呼吸不全、低血圧、発熱、頻脈など診断基準:
  • 輸血中or輸血後6時間以内の急性発症
  • 低酸素血症
  • CXRでの両側肺浸潤影
  • 過負荷や左房圧上昇所見なし
  • 輸血前に ALI/ARDS なし
  • 輸血以外のリスク因子なし
マネジメント:
・輸血中であれば速やかに中止
・酸素投与や人工呼吸器での呼吸サポート
予後/予防:
・TRALI発症の70-80%で人工呼吸器管理が必要
・だいたいは72時間以内に回復
・予防はTRALIを起こした血液製剤のドナーと同じ血液製剤は避ける
TRALIの既往は再発のリスクにはならない
・血液センターに報告し、検体(輸血前後の患者の血清、使用した血液製剤バッグ、有害事象報告書)を送る
 
*輸血合併症であるTACOとの鑑別:
TACOは心不全徴候(JVD,EF低下、高血圧、overvolume)あり、TRALIは低血圧、hypovolume、normal EFで区別
 
アナフィラキシーとの鑑別:
アナフィラキシーはよりアレルギー症状(stridor, wheeze, 消化器症状、皮疹)が出る 
 
出典:
  1. UptoDate Transfusion-related Acute Lung Injury referenced 20191212.
  2. 日本赤十字社>輸血の副作用>非溶血性副作用
    http://www.jrc.or.jp/mr/reaction/non_hemolytic/trali_taco/
 

DOACまとめ_2019版

 

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DOACまとめ 2019版

 

 

 

 

どのDOACが

PE/DVTに適応あり? 80才以上禁忌はどれだったけ?

などなど、覚えられないので当院の超優秀な薬剤師さん達(中薗健一さん、勝綾香さん)とともに、以前にまとめを作りました。

2019年版をアップデートしましたのでシェアします。

ご自身でも必ずダブルチェックの上、ぜひ日常臨床に活用ください。

ICU管理の超基本 

ICU管理の超基本:

 

F Feeding

A Analgesia

S Sedation

T Thromboprophylaxis

H HOB30

U Ulcer prophylaxis

G Glycemic control

 

+Tubes & Lines

+De-ICUを忘れずに

 

  • Sedation vacation
  • If you can use the gut, use the gut.
    Parenteral nutrition→increased risk of infection.
    Prolonged NPO →increased risk of stress ulcer.
    Enteral epithelial atrophy→bacterial translocation
  • Glycemic control 140-180mg/dl (rather than 80-110mg/dl)
  • Transfuse if Hb <7.0 (in medical ICU pts without active bleeding or active coronary problems)
  • DO NOT FORGET REHABILITATION

 

ICU管理の超基本を先日やりました。覚えるのべき「原則・一般論・型」は上記だけです。

そのときのしゃべったことのニュアンスを全部書くのは困難ですが、上記が理解できるように、なるべく書いておきます。

 

F Feeding:

この方の栄養はどうなっているんだっけと考える。その時の一般論が下記:

  • If you can use the gut, use the gut.
    Parenteral nutrition→increased risk of infection.
    Prolonged NPO →increased risk of stress ulcer.
    Enteral epithelial atrophy→bacterial translocation

集中治療管理下でも腸管が使えるなら腸管をつかうのが原則(if you can use the gut, use the gut).

なぜならば、TPNは感染のリスクも上がる。腸管を使わないと腸管上皮が萎縮する。

もちろん、消化管穿孔・汎発性腹膜炎術後などで当分(例:1週間以上)腸管が使えなさそうなことが予測されるなら、経静脈栄養を開始するメリットの方が大きい。

 

A Analgesia

S Sedation

この方の鎮静/鎮痛のはどうなっているんだっけと考える。

鎮痛:フェンタニルモルヒネ

鎮静:ミダゾラムプロポフォール、プレセデックス

時代の流れは(私が研修医だった20年前など)、「鎮静=例ベンゾジアゼピン」だけで眠らせていた

→ 'analgosedation'の考え方が主流に=「鎮痛=例フェンタニル」を中心に。必要に応じて鎮静を追加。RASSー2目安。

ベンゾジアゼピンよりもプレセデックスの方がせん妄が少なそう(※2)。

(ただし、プレセデックスは血圧↓ 脈拍↓であり、敗血症性ショック極期などには使いにくいことも多い)

   

sedation vacation’を行う: 

daily awakeといわれることもあり、用語はどれでもOK。

「ずっと深鎮静のまま」ではなく、毎朝sedation(=例 ミダゾラム)をオフにして意識レベルを確認、可能ならその時にリハビリも合わせるとベスト。

どうしてずっと眠ってもらっていてはいけないの??

→ 鎮静が蓄積して、抜管できる状況になっても鎮静が延々さめないリスク

  意識レベルの評価や神経所見の評価ができない

 

T Thromboprophylaxis

DVT予防忘れずに:

ヘパリン皮下注vs フットポンプ (ICD interminttent compression device, SCD sequential compression deviceと呼ばれることも ※1)

H HOB30

ギャッジアップ30度を忘れずに ∵VAP予防

U Ulcer prophylaxis

消化性潰瘍予防を忘れずに (挿管管理48時間以上など)

G Glycemic control

血糖コントロール 140-180mg/dl (rather than 80-110mg/dl) 

 

 

+Tubes & Lines 

プレゼン(orカルテの最後)に、tubes& linesを必ず入れる=把握する。挿入日も含めて。

記載例:挿管チューブ(8/26)、右内頚CV(8/31)、左鼠径バスキャス(8/26)、尿道カテーテル(8/26)、右橈骨Aライン(8/31) 

 

+De-ICUを忘れずに

私がVMMCのICUローテーションでたたきこまれたのが この'de-ICU the patient' という概念。

私たちがICU管理で行っていることはすべて必要だったことであり、それがなければ救命できなかったのだが、「必要悪」だということを忘れないようにする。言い換えると必要なくなったらICU状態から解除してあげる(=de-ICU)ことが次の大事な仕事であることを認識する。

つまり、「挿管しているけれど、いつ抜管できるだろうか」「バスキャスは・Aラインは・CVラインは必要だったけれども、今日も必要だろうか」を毎日評価して判断する。必要ないと判断したらすみやかに抜去する。

どうしてde-ICUが次の大事な仕事なのか??

  • 長引く挿管管理→ VAPのリスク
  • 長引くバスキャス、CV、Aライン→ CRBSI (catheter associated blood stream infection)のリスク
  • 長引く尿道カテーテル→ CAUTI (catheter associated urinary tract infection)のリスク
  • 長引く鎮静→ ICU-AW (ICU acquired weakness)のリスク (∴リハビリ必須)
  • 長引くベッド上安静/不動化(immobilization)→ DVTのリスク (∴リハビリ必須)

「肺胞出血の血漿交換」や「体外循環」や「人工呼吸器の詳細なモード」などを詳細に習得することと同じくらい(時にはそれ以上に)この平凡な基本を抜けなく確実に (being thorough)行うことをVMMCのICUでは強調して教育され、私はそれは患者利益に直結すると実感しています。

 

ぜひ、使ってください。

 

【北野夕佳+ 藤谷茂樹ボス監修】   

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あまり重箱の隅ならぬように、すこしだけ。

※1: DVT予防のmechanical methods (フットポンプ)はエビデンスはあまりない。∴「フットポンプにしているから大丈夫」ではなくて、「ヘパリン皮下注にしたいけれど現時点では出血のリスクが高いため投与できない。その間はフットポンプにする。出血のリスクが問題なくなればヘパリン皮下注に速やかに切り替える」という思考過程を持つこと。同じくearly mobilization(早期離床=リハ)の重要性も再認識を。

 

※2:プレセデックスは、大規模StudyであるSPICE III studyでは有用性は実証されませんでしたが、せん妄に関してはベンゾジアゼピン類やプロポフォールよりは過去の論文では有用性が示されています(またエビデンス、変わるかもしれません)

 

DICの型_超基本

DICの型

大原則① DICの治療は、原疾患の治療

大原則② DIC以外の病態でないか鑑別を

 

DICの原疾患の代表的なものは?

  • 感染症(Sepsis)
  • 外傷
  • 腫瘍(特にhematological malignancy)
  • その他(←これは毎回DDxリスト見ること) 

    

DICの鑑別の代表的なものは?

 

そのほかのDIC治療の全体像は?

Xigris (activaetd protein C) was once approved and used
→ denied with negative study, currently not used. 

Recombinant Human Thrombomodulin
→ controvertial 

 

本日、多施設ジャーナルクラブでDIC/リコモジュリンの論文をやりました。

その後に、DIC超基本振り返りをしました。

私がVMMC(Virginia Mason Medical Center)でたたき込まれた『型』が上記で、実際に臨床上今も使っています。覚えるのは上記のみ、理解のために下記。

 

大原則① 

DICの治療は?

リコモジュリン?Xigris (Activated protein C)?ではなくて

『原疾患の治療』が最重要。

なので、敗血症なら、さっさと血液培養採取、1回目の抗菌薬を可及的速やかに投与(なぜならば、抗菌薬の遅れ1時間ごとに死亡率7%↑*1
かつ

Source control:
例:

消化管穿孔なら手術を。
肝膿瘍ならドレナージを。
閉塞性化膿性胆管炎なら ドレナージを(ERCP or PTCD or PTGBD)
閉塞性腎盂腎炎なら尿管ステント留置を

 

大原則② DIC以外の病態でないか鑑別を

言い換えると、診断が間違っていて有らぬ方向に向かわぬように、本当にDICだよね?と考えること。

鑑別は?

HIT:

ヘパリン投与していないか? 投与している症例で血小板だけ下がっているなら HIT疑いで4Ts scoreつける。ヘパリン開始と血小板減少の時系列を把握する。「投与」していなくてもAラインやCVラインの圧バッグ内のヘパリンでも起こることあり。特に2回目以降のヘパリン曝露時)

TTP/TMA
ゲシュタルト:血小板低下。破砕赤血球(+)。
凝固正常。

 

 

 

 

 

*1:Kumar A, et al.: Duration of hypotension before initiation of effective antimicrobial therapy is the critical determinant of survival in human septic shock. Crit Care Med 2006, 34: 1589-1596.

外傷_FACT_施設内利用用_覚書

外傷の時のFACT (Focused Assessment with CT for Trauma) 

  1. 脳外科介入必要な頭蓋内出血がないか
  2. 大動脈弓レベルまでおりてきて
  3. 大動脈損傷ないか
  4. 重篤な肺損傷・血胸・気胸がないか
  5. 骨盤底までおりてきて
  6. ダグラス窩(膀胱直腸窩)腹腔内出血がないか
  7. 骨盤骨折・脊椎骨折 ± 後腹膜出血がないか
  8. 実質臓器損傷がないか(肝・脾・腎などの破裂・出血・損傷)
  9. 腸間膜血腫がないか 
  • 3分で見終わる
  • 迷う所見の場合にも、そこで停滞せずに上記を続けてみてしまう。

 

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                (スライド:松本純一先生より)

・・・・・・・・・・・・・     

聖マリアンナ救急医学(本院)に外傷放射線科といえば、の松本純一先生がおられます。

うち(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)にも、週1回、朝の放射線読影カンファに来てくださっています。

上記、松純先生の許可のもと、施設内利用用_覚書として載せさせてもらいます。

多発外傷、気が動転するからこそ『型』大事ですね。皆で使いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

心房細動_後半

【今回はうちの吉田稔Dr.が書いてくれました。非常に実用的!ぜひ使ってください】

 

Generalistのための心房細動マネージメント:超基本その2

 

前回は0〜2は診断・緊急対応・原因精査に関してまとめました。

今回は、AFの治療に関してこの回はまとめました。詳細は、新・総合診療医学病院総合診療医学編第3版の『心房細動』を参照にしてください。

 

  1. 脳梗塞リスクの評価と治療の必要性、出血リスク評価、抗凝固薬の選択

3-1. 脳梗塞リスクの評価と治療の必要性

 脳梗塞リスクを評価するにあたり、まず弁膜症性AFかどうかを評価する。ここでいう弁膜症性とは、僧帽弁狭窄症と人工弁置換後をさす[1]。弁膜症性AFでは塞栓症のリスクが高く、他のリスクに関わらずDOAC(direct oral anticoagulant:直接作用型経口抗凝固薬)ではなく、ワルファリンの投与を行う[1]。

 非弁膜症性AF脳梗塞リスクの評価には、CHADS2スコア・CHA2DS2-VAScスコアが用いられている(図1)。CHA2DS2-VAScスコアはより低リスク群を捉えることができるスコアである。我が国の心房細動治療ガイドライン(2013年改訂版)[1]ではCHADS2スコアですら十分に広まっていないことや簡便性を考慮し、CHADS2スコアを中心に足りない部分を追加する形で作成されている(図2)。CHADS2スコアが2点以上であれば、脳梗塞の予防効果が出血リスク(日本人のワルファリン投与中の頭蓋内出血発症率0.6〜1.0%/年 [1])を上回るため、積極的に抗凝固療法を行うべきである。 

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3-2. 出血リスクの評価

 出血リスクの評価にはHAS-BLEDスコアが用いられるが有用性は十分ではない[2]。出血リスクを認識し、治療可能な因子をコントロールすることが重要である(図3の赤字はコントロール可能な因子)。血圧≦160 mmHgにコントロール(目標血圧<130 mmHg[3])、PT-INRが不安定な場合は適応があればワルファリンをDOACへの変更、不要な抗血小板薬・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の中止、節酒・禁煙などの生活指導を行うことが重要である。

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3-3. 抗凝固薬の選択

 非弁膜症性AFでは、DOACは薬物間で差はあるが、ワルファリンと同等かそれ以上の効果・副作用予防効果を示している。腎機能、年齢、体重、嗜好(納豆・青汁など)、薬の自己負担額や併用薬を考慮して選択する。弁膜症性AFではワルファリンよりも有効性・安全性共に劣るためDOACは用いず、ワルファリンを選択する。

 

  1. レートコントロールの目的と方法

4-1.レートコントロールの目的[4]

・頻脈による血行動態不安定化を避ける・症状の改善

・頻脈誘発性心筋症を避ける

 

 頻脈性AFによる血行動態の不安定化の病態生理は以下である。AFにより心房収縮が喪失する。洞調律時の心房収縮は血液の左室充満に重要な役割を果たしており、1回拍出量の約20-25%と言われている[5]。それに加えて、頻脈により拡張期が短縮し左室充満が減少する。その結果として、1回拍出量・心拍出量・冠動脈灌流の低下をきたし、血行動態の不安定化が起きる。HR>130 bpmを超えると心機能が低下する頻脈誘発性心筋症を起こす可能性がある[1]。

 

4-2. レートコントロールの方法

  • 安静時HR<110 bpmを目標[4, 6]、それでも症状がある場合はHR<80 bpmを考慮[2]

  • WPW症候群(副伝導路)がないことを確認(副伝導路あれば専門医に相談)

  • 心機能、心不全症状を確認

①左室機能(EF)≧40%:非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)、β遮断薬どちらでも可。

②EF<40%・心不全の症状あり:β遮断薬を少量から慎重投与。ジギタリスも選択肢の一つ。血行動態が不安定・薬剤を併用してもレートコントロールできない場合はアミオダロンを考慮(非ジヒドロピリジン系Ca-blockerは陰性変力作用があるため避ける[2, 4])

 

  1. リズムコントロール 目的・方法

5.1 リズムコントロールの目的

 電気的、薬理学的、いずれの除細動でも洞調律に回復・維持できれば、症状の改善、心房収縮による血液の左室充満の増加が期待できる。一方、基礎疾患としての心不全合併の有無に関わらず、薬理学的除細動によるリズムコントロールはレートコントロールと比べて、生命予後や心血管イベントの発生率に差を認めなかったという報告がある[2, 4]。心房細動に伴う自覚症状が主な適応であるが、その他、電気的、薬理学的除細動の適応となる因子は、若年、初発、レートコントロールが困難な場合、頻脈誘発性心筋症、患者の嗜好などがある[2]。

 

5.2 除細動を行う前に

 薬理学的除細動でも、同期電気ショックによる除細動でも、48時間以上AFが続いている、または、発症時期がわからないものは塞栓症のリスクを有する。塞栓症を予防するため緊急性がない場合は、除細動を行う前に以下のどちらかをチェックする必要がある[1, 4]。

  • 経食道心エコーで左房内に血栓がないことの確認
  • 除細動前3週間以上抗凝固療法の施行されていること

 

 

5.3 リズムコントロールの方法

  • 薬理学的除細動
  • 同期電気ショックによる除細動
  • カテーテルアブレーション

除細動の方法は、原疾患、心機能、年齢に応じて決定される。

・薬理学的除細動(抗不整脈薬)

 Generalistとして用いるのはI群の抗不整脈薬のみ。代謝(腎・肝臓)、作用時間、副作用を考慮した上で用いる。Ⅰ群の抗不整脈薬は心不全、器質的心疾患がある患者には使用できない[2]。これらの患者やⅢ群の抗不整脈が必要になる場合は、重篤な副作用を認めるため投与に関して専門家へのコンサルテーションが必要[7]。集中治療領域では、Mgの点滴静注も推奨されている[8]。

 

・同期電気ショックによる除細動

 頻脈性AFによる不安定化を認める緊急時にも行うが、安定している例では患者の希望、抗不整脈薬の副作用が大きい場合、薬理学的除細動が困難な場合などに検討する[1]。施行時は鎮静等が必要[4]。

 

カテーテルアブレーション

 カテーテルアブレーションにより、心機能が改善、虚血性脳卒中発症率や死亡率が減少したという報告もあり、カテーテルアブレーションによる洞調律の維持が有効な症例も存在する[4, 9]。

 

 著明な左房拡大(左房前後径50 mm以上)、持続時間が長い場合(1から2年以上)では、除細動の成功率が低いことから、Learning Point 1から4の治療を優先し、基礎疾患の治療・脳梗塞予防・レートコントロールに努める[1, 9]。

 

 今まで精査されていないAFであれば、除細動の適応も含めて、一度は専門医にコンサルテーションした方が良いと筆者は考える。

 

AFを見たときのマネジメントに関して解説したが、Learning Point 0 ~ 5 のSTEP を順番に評価することで、緊急同期電気ショックが必要な重症患者から内科外来に訪れる軽症な患者まで系統立てて評価が可能である。より緊急性が高く重要な順番に評価・治療介入が可能である。AFの発症には基礎疾患が影響するだけでなく,基礎疾患の治療により生命予後を改善させることができる。そのため,AF の治療だけでなく、基礎疾患の精査や治療など日々の内科管理が重要である.

 

 

①      Reference

[1] 井上博. 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版). 2013.

[2] January CT, Wann LS, Alpert JS, Calkins H, Cigarroa JE, Cleveland JC, Jr., et al. 2014 AHA/ACC/HRS guideline for the management of patients with atrial fibrillation: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society. J Am Coll Cardiol. 2014;64:e1-76.

[3] Toyoda K, Yasaka M, Uchiyama S, Nagao T, Gotoh J, Nagata K, et al. Blood pressure levels and bleeding events during antithrombotic therapy: the Bleeding with Antithrombotic Therapy (BAT) Study. Stroke. 2010;41:1440-4.

[4] Kirchhof P, Benussi S, Kotecha D, Ahlsson A, Atar D, Casadei B, et al. 2016 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation developed in collaboration with EACTS. Eur Heart J. 2016;37:2893-962.

[5] American Heart A, 日本Acls協会, 日本循環器学会. ACLS EPマニュアル・リソーステキスト: [バイオメディスインターナショナル]; 2014.

[6] Kirchhof P, Breithardt G, Aliot E, Al Khatib S, Apostolakis S, Auricchio A, et al. Personalized management of atrial fibrillation: Proceedings from the fourth Atrial Fibrillation competence NETwork/European Heart Rhythm Association consensus conference. Europace. 2013;15:1540-56.

[7] 山下 武. Revolution心房細動に出会ったら: メディカルサイエンス社; 2011.

[8] Bosch NA, Cimini J, Walkey AJ. Atrial Fibrillation in the ICU. Chest. 2018;154:1424-34.

[9] 赤尾 昌. これが伏見流!心房細動の診かた、全力でわかりやすく教えます。: 羊土社; 2017.

 

②      著者名

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院救命救急センター吉田 稔/吉田 徹/北野 夕佳

 

心房細動_前半

【今回はうちの吉田稔Dr.が書いてくれました。非常に実用的!ぜひ使ってください】

 

Generalistのための心房細動マネージメント:超基本その1

心房細動の罹患率は1%を上回ると予想されています。もはや循環器内科だけがみる疾患ではなく、研修医、一般内科、救急医も診断・緊急対応・管理に関して押さえておかなければならない。

 

0〜2は診断・緊急対応・原因精査を前半、3〜5は心房細動の治療に関して後半とし、2部構成で説明します。詳細は、新・総合診療医学病院総合診療医学編第3版の『心房細動』を参照にしてください。北野先生と当科の循環器集中治療専門医の吉田徹先生に監修してもらい当科としては夢のコラボです。

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0-1. AFの診断:AFか?

AFは心電図で診断する[3-5]。

⑴ R-R間隔が全く不整(絶対性不整脈と呼ばれる。)

⑵ 明瞭なP波の消失

⑶ 細動波(f波)の存在(f波:300-600 bpm

 

 

AF心電図診断のコツ

  • 頻脈の場合はわかりにくいので一番R-R間隔が広い所と狭い所を比較する。
  • ⑵・⑶は判別しやすいV1・Ⅱ誘導でチェックする[3]。慢性AFの場合⑶がないこともある。

 

0-2. AFの分類:いつ起きたか?

AFの分類[4-6]は、持続時間と洞調律に戻るかどうかで分けられている。時間経過によりⅠ→Ⅱ→Ⅲ→Ⅳに移行する。

Ⅰ. 初発AF:心電図上初めてAFが確認されたものを指す。無症状の例も多く、初発であるかどうかは多くの場合判断できない。
Ⅱ. 発作性AF:発症後7日以内に洞調律に戻るもの。多くの場合は48時間以内に戻る。
Ⅲ. 持続性AF:7日を超えて持続するもの。
Ⅳ. 永続性AF:電気的・薬理学的に除細動不可能なもの。

 

慢性AFという用語が、長期にわたる持続性AFや永続性AFを指して慣習的に用いられる事があるが、その定義は明確ではないので、定義が明確かつマネジメントにも応用可能な、上記の分類Ⅰ-Ⅳも覚えて頂きたい。

 

  1. 頻脈性AFによる不安定化の判断と治療:緊急同期電気ショックは必要か?

 頻脈による不安定化を判断するために有用な覚え方として『いしき心配』がある(詳細は図2を参照[7])。これらの症状・徴候があれば、頻脈による不安定化と判断して、緊急同期電気ショック(2相性120〜200J)を考慮する[8]。なお、頻脈性AFによる不安定化が生じる場合は、通常HR 150 bpmを越えている時である[8]。不安定化がある場合、塞栓症のリスクがあっても電気ショックによる除細動が正当化されるため、早急に施行を考慮する[5](カルテ記載要)。 

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  1. AFに影響を与える基礎疾患の精査・治療

初発AF・精査されていないAF患者に行うべき診察・検査[3, 4]

問診:心不全症状(起座呼吸、労作時呼吸困難など)、動悸の頻度・持続時間・誘発因子、嗜好歴(喫煙、飲酒)

身体所見:呼吸数を含むvital sign、一般的な診察(特に心音(murmur)、S3、S4、呼吸音、下腿浮腫、甲状腺腫大、頸静脈怒張など)、腱反射

検査:心電図、胸部X線、経胸壁心エコー(弁膜症、心機能、心筋症、左房の評価)、心筋逸脱酵素(CK、CK-MB、トロポニン)、BNP甲状腺機能(TSH、fT4)、電解質(K、Mg、Ca)、腎機能、全血算、D-dimmer、HbA1c、血糖、尿検査

これらの症候や検査結果を踏まえて、AFを認めたときに検討すべき高頻度疾患や緊急疾患について、急性期(2-1)、慢性期(2-2)にわけて以下にまとめる。

 

  1. AFの発症や不安定化に影響を与える基礎疾患・病態(すぐに治療介入可能な原因に下線)[8, 9]

循環器疾患

 虚血性心疾患(急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定狭心症、労作性狭心症など)

 弁膜症(特に僧帽弁狭窄症)

  心不全・心房圧の上昇

 心筋症(肥大型心筋症、拡張型心筋症など)

  心筋炎・心膜炎

 血栓塞栓症

その他

 hypovolemia(出血、脱水など)

 貧血

 感染症

 低酸素血症(肺炎、心不全COPDなど)

 電解質異常(特に低K血症、低Mg血症)

 甲状腺機能亢進症

 薬物(アルコール、交感神経刺激薬など)

 

 

重症患者にAFを認めた場合、AFが原因でショックに至っているのか、全身状態が悪い結果AFになっているのか判断がつかないことを多く経験する。AFに伴う不安定化として同期電気ショックによる除細動を考慮することも重要であるが、治療可能な背景疾患を治療することも非常に重要である。別に原因がある場合、AFが同期電気ショックにより除細動されたとしても、再度AFになる可能性が高い。

 

例えば

敗血症性ショック+AF→抗菌薬、脱水補正の輸液、昇圧剤でのコントロールも同時に行う。

心不全+AF→NPPVによる呼吸管理、利尿薬、降圧など、低酸素の改善、心不全治療を同時に行う。

 

2-2. 治療・改善によりAF発症が減少する慢性疾患・生活習慣[2, 3]

高血圧、糖尿病、慢性腎不全、肥満、睡眠時無呼吸症候群COPD、喫煙

 

AFの治療だけでなく、これらの基礎疾患の管理が生命予後に影響を与えることがわかってきているので、基礎疾患の地味な治療も行う必要がある。[2]

 

 後半はAF自体の管理に関して、説明していこうと思います。次回も宜しくお願いします。

 

①      Reference

[1] Kirchhof P, Breithardt G, Aliot E, Al Khatib S, Apostolakis S, Auricchio A, et al. Personalized management of atrial fibrillation: Proceedings from the fourth Atrial Fibrillation competence NETwork/European Heart Rhythm Association consensus conference. Europace. 2013;15:1540-56.

[2] 山下 武. Revolution心房細動に出会ったら: メディカルサイエンス社; 2011.

[3] 赤尾 昌. これが伏見流!心房細動の診かた、全力でわかりやすく教えます。: 羊土社; 2017.

[4] Kirchhof P, Benussi S, Kotecha D, Ahlsson A, Atar D, Casadei B, et al. 2016 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation developed in collaboration with EACTS. Eur Heart J. 2016;37:2893-962.

[5] January CT, Wann LS, Alpert JS, Calkins H, Cigarroa JE, Cleveland JC, Jr., et al. 2014 AHA/ACC/HRS guideline for the management of patients with atrial fibrillation: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society. J Am Coll Cardiol. 2014;64:e1-76.

[6] 井上博. 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版). 2013.

[7] 寺沢 秀, 島田 耕, 林 寛. 研修医当直御法度 : ピットフォールとエッセンシャルズ. 第6版: 三輪書店; 2016, 46-52.

[8] American Heart A, 日本Acls協会, 日本循環器学会. ACLS EPマニュアル・リソーステキスト: バイオメディスインターナショナル; 2014, 147-173.

[9] Walkey AJ, Benjamin EJ, Lubitz SA. New-onset atrial fibrillation during hospitalization. J Am Coll Cardiol. 2014;64:2432-3.