肝性脳症の誘因・治療・予防の型
肝性脳症の誘因:(文献1 注1)
l 脱水
l 消化管出血 (特に、胃食道静脈瘤)
l タンパク質摂取過多
l 感染 (特にSBP)
l 低K血症
l 便秘
肝性脳症の急性期マネジメント (文献1、2)
l 蛋白制限食(注2)
l ラクツロース経口or経管(経口も経管も不可なら注腸も)(注3)
ハミガキ粉の硬さの排便が2~4回/日 目標l 非吸収性抗菌薬
注1:肝性脳症症例を診た時に「アミノレバン点滴しています」だけではなく、これらの誘因がないかの評価を速やかに行うことが重要。具体的には、問診・診察、特に腹水の有無、直腸診も。穿刺しうる腹水があれば、SBPを念頭に腹水穿刺を検討。アミノレバン点滴のみで入院させておいたら、敗血症性ショックでショックバイタルになった、などということのないように!
SBP:Spontaneous bacterial peritonitis.
注2 ただし、肝硬変症例に漫然と蛋白制限をすることはむしろ望ましくない。急性期を過ぎたら、通常通りのタンパク質摂取を。必要なら少量頻回摂取をすすめる(文献4)
注3:
注1と同じく、
「肝性脳症で入院後Day3です。アミノレバン点滴で治療しています。」
「排便コントロールは?」
「えっと、、、、(看護記録を見返す)入院後まだ排便ありません」
「?!?!」ということのないように!!
米国には分枝鎖アミノ酸製剤点滴は存在しませんでした。
アミノレバン(or テルフィス)点滴という選択肢がないことでむしろ、
「肝性脳症→①誘因の検索 ②ラクツロース ± 非吸収抗菌薬内服(経管)投与でアンモニアを下げる」という概念がすっきりしていたのは良かった気がします。
処方例:
ラクツロース経口(or経鼻胃管)20ml and/or 注腸(ラクツロース150ml+微温湯200ml)
非吸収抗菌薬 リファキシミン1200㎎ 分3
文献
1 内科ポケットレファランス 日本語版 3-22
2 総合内科病棟マニュアル 256-258
3 内科レジデントマニュアル 第7版
4 UptoDate Hepatic encephalopathy in adults: Treatment last updated: Aug 17, 2017
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2018.12.21 追記:
リファキシミンが採用されていない場合に、代替薬はありますかの質問に対して:
肝性脳症の内服抗菌薬:
保険適応がある日本に存在する薬剤はリファキシミン(リフキシマ®)のみ(注4)
注4:
あまり「重箱の隅」にならぬように気遣いつつ私の思考過程・聞き込み過程を下記にシェアしますね。
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北野→大崎往夫先生
北野→当院薬剤師さんへのメール:
お知恵を借りたいたことがあります。
肝性脳症の予防・治療の内服抗菌薬、
リフアキシミン以外で、日本で使えるもの何がありますか?
私の頭からすぐ出るのはカナマイシン3グラム分3ですが、カナマイシンは少量吸収されうるので聴覚障害/腎機能障害のリスクと肝性脳症の治療・予防のベネフィットのバランスをとって判断する、と理解しています。
アメリカで使っていたネオマイシン(=非吸収とわかっている 注5)は、日本にはないですよね。
ポリミキシンBを使う施設もあるようですが私自身は使ったことがありません。
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大崎往夫先生からの耳学問:
(元:大阪赤十字病院消化器内科統括部長、現:明和病院特任院長.
大阪赤十字病院研修医の時からの私の生涯のメンター。
今回In the Clinic HCVでも専門監修していただきました)
肝性脳症も含めて肝硬変の治療薬は日本と海外では大きく異なります.
腹水コントロールのための利尿剤も欧米のガイドラインではフロセミド160mgまで投与となっています.
そんなことをすると日本人ではすぐに腎不全となってしまいます.
日本ではアルダクトン25-50mgとの併用で40mgまでが推奨されており早期にトルバプタンを使うようになっています.
また肝性脳症に関してもご指摘の通りです.
リファキシミンはイタリアで開発されたもので何十年?も前から使われていたものです.
日本では治験をしていなかったため,代替として保険適応ではありませんでしたが,他になかったためカナマイシンが使われており当局も黙認していました.
これも難吸収性でほぼ同等の効果を得られるものと思われますが,リファキシミン(リフキシマ®)が保険収載されたため現在はリフキシマ®となりこれしか使えるものはありません.
ネオマイシンは実験用に供給されているだけです.
ポリミキシンBもカナマイシンと同様です.
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当院(聖マリアンナ横浜市西部病院)の超ありがたい病棟薬剤師
中薗健一さん、勝綾香さんが調べてくれた情報 下記。
カナマイシン内服は、保険適応としては感染性腸炎などのみであり、肝性脳症への保険適応はなし。
ただし、リファキシミンが肝性脳症の治療薬として2016年に承認されるまでは、肝性脳症予防/治療に対する非吸収性内服抗菌薬で保険適応の薬剤がそもそも日本に存在しなかったため、カナマイシン内服が適応外使用として長年使用されてきた。
カナマイシン内服の、吸収率、聴覚障害(特に透析・CKD症例)に関しては以下。
(文献5より抜粋)
カナマイシン内服の透析患者への投与方法:内服は減量の必要はない(経口ではほとんど吸収されない)が、腸管の炎症が強いと吸収される。その場合、透析患者では排泄が遅延しているため長期投与する場合には蓄積して聴覚障害を引き起こす可能性があるので要注意。
吸収:健常者の小腸粘膜から約1%と無視できる量しか吸収されないが、小腸に炎症があり潰瘍や粘膜が浸食された場合には顕著に吸収される。
(抜粋終了)
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また、このブログを載せさせていただいているJHN (Japan Hospitalist Network)が刊行しているHospitalistにも、常に疑問に答えてくれる記載が載っています(文献6)
総合内科医、カバー範囲が広すぎるからこそ「信頼できる専門家からの耳学問(+もと記載の確認)」を「確実なシンプルな型」として生涯学習してゆければと思います。
私も勉強になりました。
文献
5. 透析患者への投薬ガイドブック 慢性腎臓病(CKD)の薬物治療改定3版 じほう pp.796-797
6. 宮垣亜紀 肝硬変の合併症②:肝性脳症と栄養マネジメント.Hospitalist 2018 vol.6 No.3 pp705-715.
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注5 さらに追記:
今回調べなおしたところ、私がレジデンシーをしていたとき(2006-9)の1st choiceであったNeomycin内服は、米国でももはやfirst lineでなくなっているようですね。リファキシミンが米国でも1st choice( 文献7)
文献
7. UptoDate. Hepatic encephalopathy in adults: Treatment, this topic last updated: Aug 17, 2017.