Dr.Yukaの5分間ティーチングブログ

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 救命救急センター 北野夕佳の5分間ティーチング連載ブログです。日々の臨床で必要な知識を「型」として蓄積するブログです。

ステロイド全身療法前の注意事項 

ステロイド全身療法前の注意事項    (2023年3月6日マイナー修正しました)

堀川武宏

 

ステロイドは副作用が大変多い薬です。

副作用には不可逆かつ致死的なものもありますが、適切なマネジメントで予防が可能です。予防可能な副作用を確実に予防することが重要です。

 

■副作用の閾値

  • ステロイドの副作用には用量の閾値投与期間の閾値があり、両者の閾値を超えたときに副作用が出現します。
  • 数ある副作用の中で最も注意を払わなければならないのは、視床下部―下垂体―副腎系 (HPA)抑制です。HPAが抑制されると、ステロイドを短期間では中止できなくなるからです。
  • HPA抑制の用量閾値プレドニゾロン(PSL)7.5mg/day、期間閾値は3週間が目安となります1),2)。(個人差が大きく、一概に予測が難しいことに注意が必要です。)
  • 日和見感染症の用量閾値は、PSL 20mg/dayが目安となり、重篤日和見感染症は、投与後約1ヶ月後以降に発症します。

<HPA抑制と日和見感染の副作用閾値

  • HPA抑制:PSL 7.5mg/day以上を3週間以上(個人差あり)
  • 重篤日和見感染:PSL 20mg/日を4週間以上

 

■副作用予防

大部分の副作用は、予測可能かつ予防可能です。

事前チェックを行い、リスクが高い症例では予防が必要となります。

 

<全身ステロイド療法前のチェックリスト>

感染症チェック

インターフェロンγ遊離試験(T-spot or QFT)±ツベルクリン反応検査

・胸部単純X線 or/and 胸部単純CT

・HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体、HCV抗体

消化性潰瘍のリスクチェック

・NSAIDs中止(可能なら)、PPI併用(NSAIDs中止できない場合)

・消化性潰瘍の既往

その他のベースラインチェック

・糖尿病 (HbA1c、空腹時血糖)

脂質異常症

緑内障(糖尿病・緑内障の家族歴・強度近視があれば、眼科コンサルトを検討)

 

1.結核の再活性化(潜在性結核感染症スクリーニング)

  • PSL 15mg/day以上を2-4週間以上使用すると結核発症リスクが高まるとされていますが3)ステロイド量によらず免疫抑制薬や抗サイトカイン療法を併用する際は、胸部X線インターフェロンγ遊離試験(T-spotやQuantiFERON:QFT)によるスクリーニングを行います。

 

2.B型肝炎ウイルスの再活性化

HBs抗原陽性(慢性B型肝炎、無症候キャリア)、HBc抗体・HBs抗体陽性(既感染)の患者にステロイドを投与することで劇症肝炎(de novo肝炎)を発症する可能性があるため、ステロイド投与前に、HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体によるスクリーニングを行います。

  • HBs抗原陽性例には核酸アナログによる治療を行います。
  • HBc抗体またはHBs抗体陽性例(ワクチン接種によるHBs抗体単独陽性例は除く)でHBV-DNAが基準値以上検出された場合にも核酸アナログによる治療を行います。
  • HBc抗体またはHBs抗体陽性例(ワクチン接種によるHBs抗体単独陽性例は除く)でHBV-DNAが基準値未満の場合には、HBV-DNAリアルタイムPCRによるモニタリングを1〜3ヶ月毎に行い、基準値を超えたら核酸アナログによる治療を開始します。

HBV-DNAの治療閾値は、適宜変更されていますので、日本肝臓学会が作成している最新の「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン4)を確認するようにしてください。

 

C型肝炎について

C型肝炎へのステロイドの影響は、報告により異なっています。現段階では事前にHCV抗体のスクリーニングを行い、肝酵素の推移を経過観察していくのが妥当と考えられます。

 

3.ニューモシスチス肺炎

  • 免疫抑制療法に伴って出現するニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia; PCP)は致死率が高いことが知られています。
  • PSL 20mg/日を4週間以上使用が、PCP予防開始の目安と言われています5)
  • ステロイドPCP発症のリスク因子の一つに過ぎず、PCP発症の必要条件ではありません。ステロイドを投与しなくても、免疫抑制薬や抗サイトカイン療法でPCPを発症することが知られています6),7)
  • 同様に、ステロイドを中止してもPCPを発症することが知られています。高齢者・肺疾患がある患者で、ステロイド中止後も免疫抑制薬や抗サイトカイン療法を継続している症例ではPCP予防も継続した方が無難です8)

 

<実際の処方>

ST合剤(バクタ)1回1錠 1日1回 連日

※ST合剤が副作用で使用できない場合には下記のいずれかを用いますが、予防効果は低下します。

  1. アトバコン 10mL 1日1回 食後 連日
  2. ペンタミジン 300mg 蒸留水5mLに溶解し、生理食塩水またはブドウ糖液で希釈し、30分かけてネブライザー吸入 1ヶ月に1回

 

脆弱骨折は生命予後に関わる副作用と考え、「骨折をきっかけとしたADL低下→筋力低下→更なるADL低下→寝たきり」の悪循環に入れない事が重要です。

  • 日本骨代謝学会の「ステロイド骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン(2014年版)」9)のスコアリングシステムを参考に治療適応を判断します。
  • 既存骨折、65歳以上、または腰椎骨密度70%未満ではステロイド使用量によらず治療適応となります。
  • 治療は、ビスホスホネート製剤(アレンドロン酸、リセドロン酸)を第一選択とします。

※国際的にはFRAX(骨折リスク評価ツール)を用いて治療適応を判断することが多いですが、閉経前の女性と50歳未満の男性には適用できない制限があります。また、評価方法が煩雑です。そもそも、本邦ではガイドライン遵守率の低さが問題となっており、FRAXを推奨しても遵守されてなければ意味がありません。ですので、下記の通りに記憶しておきましょう。

  • PSL 7.5 mg/dL以上を3ヶ月以上投与する場合、年齢を問わず骨粗鬆症予防が必要となる。
  • 65歳以上では、ステロイド量を問わず骨粗鬆症予防が必要となる。

 

<日本骨代謝学会の推奨>

 

■その他、スクリーニングするべき副作用予防

NSAIDs併用での消化性潰瘍リスク上昇について

  • NSAIDsとステロイドの併用は、消化性潰瘍のリスクを上昇させます。
  • ステロイド投与中には、NSAIDs使用を可能な限り避ける方が良いでしょう。
  • やむを得ず使用する場合はPPIで消化性潰瘍予防を行います。

 

耐糖能異常・脂質異常スクリーニング

耐糖能異常、脂質異常症があるとステロイド治療によって治療を要する高血糖脂質異常症になる可能性があり、事前にチェックしておきます。

 

緑内障

開放隅角緑内障の家族歴、40歳以上の糖尿病、強度近視を有する例では緑内障のリスクがあるので、PSL 7.5mg/日以上を長期投与する際は緑内障のスクリーニングを行います。

 

【引用/参考文献】

[雑誌]

1) N Engl J Med 2003;348:727-34.

2) Ann Rheum Dis 2013;72:1905–1913.

3) Am J Respir Crit Care Med. 2000;161(4 Pt 2):S221-47

4) 日本肝臓学会:免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン.

5) Kovacs JA, et al: JAMA. 2009,301(24):2578-85.

6) Wollner A, et at: Thorax. 1991,46(3):205-7.

7) Kameda H, et al: Intern Med. 2011,50(4):305-13.

8) Suryaprasad A, et al: Arthritis Rheum. 2008,59(7):1034-9.

9) 日本骨代謝学会:ステロイド性骨粗琢症の管理と治療ガイドライン(2014年版).

 

[単行本]